「大塚家具が大赤字」の報で見えた、“ショールーム式家具屋”の限界


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「父と娘が骨肉の争いを繰り広げたIDC大塚家具が、過去最悪の赤字に!?」という報道を目にしました。「なるほどな、大変だろうな」と率直に感じます。

一方で、お父さまが立ち上げた「匠大塚」もそれほど簡単に業績が伸びるとは思えません。筆者は10年ほど前まで、FC加盟して輸入家具屋を経営していましたので、小さいながらもそれなりに業界の裏側を見てきました。
では、「何」がそんなに「大変」なのか、さわりを少しお話ししようと思います。
 

超高級路線は成功するか?

 
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筆者が輸入家具屋で主に取り扱っていた家具は、ロココ調と言われる、ヨーロピアンクラッシック家具と呼ばれるもの。ネコ脚、象嵌(ぞうがん)、ハンドペインティングに代表されるマニアにとって垂ずいの家具なのです。もちろんロココ調といわれるだけありどれも高価。よって、基本的には富裕層が対象でした。そんな高級家具の世界観をもっともっと「高級」にしたのが、娘お家騒動を繰り広げた後に、お父様が立ち上げた「匠大塚」です。

「匠大塚」のショールームでは“超”高級家具がラインナップされていて、かつてのIDC大塚家具のように“ご案内係”が存在するようです(過去、IDC大塚家具では一組のお客様に対して、一人のご案内係がついてまわるサービスを実施していました)。
「匠大塚」の場合、ターゲット設定はしっかりとできている気がします。しかし問題は、「匠大塚」が「限られてはいるが、確かに存在する人たちを取り込めるか」に集約されます。ここでいう「確かに存在する人たち」とは、「超高級家具を買う富裕層=有名絵画の原画を何千万円、時には億単位で買う層=フェラーリをためらいなく買い替える層」……ということになります。

彼らの購買行動は、庶民とはまったく異なります。
ショップ担当者にすれば、常に嫌われない程度に超バブリー御用聞きを展開し、先まわりして彼らの虚栄心を次々とくすぐり続けなくてはいけません。そうでなければ、短いスパンで何度も買い替えるものではない家具を買い替えてもらうことはできないからです。これは非常に高度なテクニックを要します。かつて「IDC大塚家具」の時代にできていたからといって、移り気な「フェラーリをためらいなく買い替える層」の懐と心を再びがっちり取り込むめるかどうかは、果たして何とも言えないところではないでしょうか。
 

どんなことがあっても、利益率50%!?

 
一方で、骨肉の争いを繰り広げた当事者である娘さんは、過去の「IDC大塚家具」のビジネスモデルの困難さと限界、幅の狭さに気づいたからこそ、庶民も気軽に足を運べるショールームという「箱」を用意し、その箱の中で、幅広い価格帯の家具を揃えるイノベーションに着手したのでしょう。
イノベーションの結果、無理な接客もしない新生・IDC大塚家具に生まれ変わったようですが、IDC大塚家具がニトリやイケアのように薄利多売路線を徹底して貫かない限り、「利益率50%」は最低確保しないと、正直やっていけないはずです。
 

「えっ? 50%の利益って高すぎない?」

 
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「ショールームに並べて売っているだけなのに、利益率50%も取るの?」と読者のみなさんは、きっとお思いでしょう。でも考えてみてください。
IDC大塚家具が存在する土地は、一坪あたり2万円/月くらいの家賃はします。ダイニングテーブルを置いているスペースが約2坪だとすると、4万円/月。3カ月滞留すれば12万円/月。
こうなれば、もう利益どころではなくなります。
ニトリやイケアは、自社開発製造の製品を中心に商品を構成し、さらに、組み立てをお客さん側に任せる手法をとり、極限まで展示スペースを節約。行ったことのある人ならわかると思いますが、イケアの場合はショールームで商品を選択したら、天井までぎっしりと配置されたラックの中から欲しいものをピックアップ。レジで支払いをする際も、包装サービスや持ち帰り用のビニールバックの提供はなし(有料バックなどはある)。そこからダンボール状の商品を自宅に持ち帰り、自ら組み立てなくてはなりません。また、43カ国で事業展開するメリットを活かし、同じものを大量生産することで、コストも抑えています。簡単に違いを説明しただけでも、「戦う土俵が違う」ことがおわかりいただけると思います。

例えば、イケアでダイニングテーブルと4人掛けの椅子をセットで購入したら5万円ほど。
一方、IDC大塚家具で買ったら20万円くらいはしますね。
その価格帯の違いはなんでしょうか。「やはり材質が違いますし……」という言葉だけで、私たち消費者は納得しません。当然ながら、ある程度の「接客=説明」が必要で、「高いけれど、自分はいいものを買ったんだ」というお客さんの高い納得感が得られない限り、ニトリやイケアを逆転する売り上げを確保することは難しいといえるのです。
 

ネット購入者のショールームと化する「リアル店舗」

 
輸入家具屋を経営していた筆者もそうでした。ヨーロピアンクラッシック家具専門では価格帯がどうしても高くなり、さらにターゲット層が狭すぎることもあって、次第に和風の家具をはじめ、様々なテイストの家具を店頭に並べ始めました。その結果は、読者のみなさんがご想像される通りです。そして、筆者が輸入家具から手を引くことになった最大の引き金は……。

「家賃ゼロ円(正確にはゼロではありませんが)のネット販売」です。

そうです。気づけば筆者のお店は、いつしか「ショールーム化」していたのです。
これはどういうことかと言いますと、来店してくれたものの、ほとんどの客がショップで実物を見て触って、店員から商品ディテールの説明を聞いたうえで、価格が安いネット上で商品を買うのです。この消費動線はいまや当たり前になっていますが、その動線が顕在化し始めた当時に店舗を構えていた立場にすれば、それは、それは悔しい思いをしました。

ネットに情報があふれている今のご時世、ニトリでもイケアでもなく、超高級路線でもなく……、中間層の家具を店頭に並べて販売する「ショールーム式販売」って実はとても難しい。
そんな現実を直視しながら、でも「頑張れ、女性社長率いるIDC大塚家具!」と心の中では応援しています。私個人は、かつての「べったり張りつかれる接客」が大嫌いでしたから。
 
 

≪記事作成ライター:前田英彦≫
大手情報サービス企業に11年間在籍後、独立。数々の創業経営者との仕事に触発されて、企業の広報活動を支援する会社を設立、現在18期目を迎えている。「レジを打ったことのない人間に小売りの何がわかる!」と言われたことがきっかけで、なぜかたい焼き屋も展開中。好きなもの。ダルメシアン、テニス、ゆで卵。


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