欧州金融市場動向レポート


米国ではトランプ次期大統領の経済対策への期待から、先週まではリスク志向の金融環境となりました。そこで今回は、その影響をその他経済地域で受けているのかどうか、検証してみたいと思います。今回は欧州経済・金融市場を取り上げたいと思います。

ユーロ圏は経済回復傾向が見られます。最新のユーロ圏の数字は次の通りです。ユーロ圏第3四半期GDP確報値1.6%前年比です。昨年第3四半期0.8%前年比となっています。明確に景気回復度合いは高まっていると言えます。インフレ率を見ましょう。
ユーロ圏10月消費者物価指数・確報値0.5%前年比で、昨年10月の0.4%前年比と、こちらはそれ程でもありません。今年前半にはマイナスの数字の月がちらほらありました。景気、物価共に現在上昇傾向であることが明確です。
ドラギECB(欧州中央銀行)総裁は、今年後半には景気回復するのではとの定例理事会後の記者会見で度々述べられています。こんなことで、ECBの金融政策にそろそろ変化が出てくるのではと推測します。まだまだ慎重なドラギ総裁は、量的緩和延長の話を持ち出すなど慎重な金融政策の運営を滲ませます。
下記のグラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)はユーロ圏の代表的長期債券指標、独連邦債10年の利回りの1年間の推移を表しています。現在0.24%の水準に位置します。ECBは昨年来物価上昇率を目標の2%に引き上げるために、量的緩和の強化を進めてきました。毎月800億ユーロの資産購入を続けています。
今年3月には毎月600億ユーロから200億ユーロ増と量的緩和を強化してきた経緯があります。それが功を奏したのか、緑の線で示した通り、利回り上昇へと変化しています。7月から10月の期間はマイナス金利となっていました。ここにきて、トランプ次期米国大統領が、インフラ投資に積極的な姿勢を示しました。その結果、財政投資額の膨張、インフレが加速するのではとの思惑から、米10年債利回りは2.35%まで上昇の動きになっています。
そしてそれが主要長期債利回りを押し上げる結果となっています。独連邦債もその流れに巻き込まれています。ユーロ圏経済の回復傾向も相俟って、押し上げていると言えます。一部にはそろそろECBは量的緩和策を弱めるのではとの観測も出てきています。
毎月の資産購入額を200億ユーロ程度少なくするのではとの思惑も出ています。筆者はごく自然な動きではと見ています。そうした動きになると独連邦債10年利回り0.50%から1.00%程度にまで上昇する動きが予想されます。短期金利の調整具合としては、政策金利(Main Refinance Operations)0.0%、預金金利-0.40%、貸出金利0.25%と変化はない。これ以上の政策金利の深堀は予想されてはいない。
来年には、量的緩和策の縮小、そして政策金利の引き上げが予想される段階になるのではと思い巡らしています。これは為替相場では、ユーロ/ドルでは、ユーロ高の動きになるのではと思っています。
現在はドル高相場でのもと、ユーロ安傾向になっています。それが来年のある時からはユーロ安の速度が落ち着いて、逆に上昇に転ずる場面が予想されることを意味します。頭の片隅に置いておきたい。

ユーロ圏経済の主要国の数字を見ると、牽引車の独第3四半期GDP:1.5%前年比、そして好調のスペイン第3四半期GDP:3.2%前年比となっています。スペイン経済は観光業が牽引しているようです。フランスも1%強のGDPを示しており、景気後退局面の底は脱しているのではと思います。
ユーロ圏諸国では、難民流入問題が大きな社会問題となっています。
今週末にはイタリア総選挙、そして来年にはフランスの大統領選挙などが予定されています。最近台頭著しいポピュリズムの台頭から、内向き姿勢の政治経済が中心になるのではないかと注意して、経済を見て行かないといけないのではと思います。

もう一つの欧州経済の主要圏は英国です。英国はBrexitを国民投票で決定し、経済と金融政策に不透明感が漂います。英第3四半期DGP改定値2.3%前年比と良い数字となっています。Brexit決定の影響でポンド安に振れたことが大きいように思います。つまりポンド安から輸出が増えたのではと思います。
また英10月消費者物価指数0.9%前年比と、ユーロ圏の数字よりも高い。BOE(イングランド銀行)は、Brexitの影響を心配して8月4日の金融政策委員会で、政策金利を0.25%引き下げて0.25%としました。年内に0.00%水準の利下げを見込むと声明文に明記しました。そして量的緩和措置である資産購入プログラムについては、3,750億ポンドから4,350億ポンドに増やす決定をしました。
経済見通しも、GDPで、来年2.3%から0.8%へ下方修正、そして2018年2.3%から1.8%へ下方修正と、総じて悲観的見通しです。しかし、思わぬポンド安効果からの経済成長好調維持となっており、カーニーBOE総裁は、今後の金融政策について、中立の姿勢を強調しているようです。
場合によっては引き締め気味、つまり政策金利の引き上げをすることも考えないといけないニュアンスに発言内容が変化してきている。まだまだBrexitの具体的なネガティブな影響が見通せない所ではあるのですが、意外と軽微なのかもしれません。
BOEも意外感の持って見守っているのかもしれません。下記(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は英国の指標債券ギルト債10年の1年間の推移を示しています。6月のBrexitの影響から、利回りは8月には0.50%台を示していました。しかし、その後上昇に転じて現在1.40%の水準となっています。
債券は市場参加者の市場観を示しています。先週ハモンド英財務相が、16~17年度に150億ポンドの債券発行を行うと発言し、上昇トレンドの勢いをつけたようです。英国も米国同様に債券発行で財源を確保し、政府支出を増やし、その結果景気刺激策を打ち出す意向のように解釈しました。
この動きを見ると、インフレは加速しそうであり、BOEは金融政策を利上げ方向に打って出るのではと筆者は思いたくなります。BrexitでEUから離脱を決めたことで景気後退との見通しを現在では裏切る結果となっています。
このことから英ポンドの動きとしては、ドル高傾向にもかかわらず、意外とポンド堅調模様と、他の主要国通貨とは正反対の動きとなっています。昔から変わった動きをするポンドの面目躍如と言えます。

総じて欧州債券利回りの動きは上昇傾向と言えます。利回り確保と言う面ではポジティブな動きと言えます。しかしまだまだ独連邦債、英ギルト債共に低い利回りであり魅力はないと言えます。そして為替面でも総じてドル高傾向を示している。対円では円安傾向がここにきて鮮明なために、一見欧州通貨高に見えます。
しかし対ドルではユーロ中心にじり安方向が春先頃までは欧州通貨安のように見え、日本から見ると魅力的には映らないようです。しっかりとミドルリスク・ミドルリターンの金融商品をポートフォリオに組み込まないといけないようです。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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