ヤマト運輸にみるロジスティクス問題 ~変わりゆく物流事情 1~


■宅配便のラベルは撮影用に作成したものです。イメージです。


 

いまや買い物はインターネットでする時代です。

手元にスマートフォンさえあれば、ポチポチっと何度かクリックするだけでOK。たとえ荷物がボールペン1本だろうと、三人掛けのソファーだろうと自宅の玄関先まで届きます。しかも、配達日と時間まで指定ができる……。なんと便利な世の中でしょうか。でも、これを「すごい!」と思うより、当たり前と感じている現代人は多いかもしれませんね。
この宅配サービスの素晴らしさ、何より日本のロジスティクスサービスは、世界的に見ても考えられないほどの正確さで提供されています。最近話題になっているヤマト運輸をめぐるロジスティクス問題に注目してみました。

 

悲鳴があがる、過去最多の荷物

 
 


 

国土交通省が公表したデータ「宅配便取扱個数の推移」(平成27年)の表を見ても明らかな通り、宅配便最大手であるヤマト運輸は、2016年度に扱った荷物が過去最多を更新し、前年比7.9%増の18億6756万個と発表しました。これは、前年比12.0%増を記録した2013年度に次ぐ伸び率の多さ。スマートフォンの普及に伴い、インターネット通販を利用する人が増えたためと考えられています。

経済産業省の調査によると、2016年のインターネット通販の市場規模は8兆円を超える額で、衣類や食品などの物販で8兆43億円を計上し、前年比10.6%増となっています。物販全体に占めるインターネット経由での購入比率は5.4%と年々増加しており、ネット通販利用の伸びは収まりそうにありません。

これに危機感を募らせたのがヤマトの労働組合です。あまりの荷物量の多さにドライバーが悲鳴を上げていただけでなく、新規ドライバーの採用がままならず恒常的な人員不足が2年も継続。もはや対応には無理があるとして、2017年の春闘で荷物の取扱量の抑制を要求しました。荷物を運ぶ物流会社が収益にかかわる荷物の量を減らすという、いわば異例の申し出とも言えます。

 

アマゾンとの提携が問題だった

 

そもそもの発端は、ヤマトが世界的なインターネット通販会社のアマゾンとの提携を一手に引き受けたことにあると言われています。アマゾンは当初、業界2位の佐川急便とも提携していましたが、佐川急便は利幅の薄い荷物を取り扱わない方針に切り替え、契約を終了。その影響がヤマトに集中することになり取り扱う荷物が急増、前述の荷物量前年比12.0%増という状況に相成りました。

アマゾンで有料会員サービス「プライム」を利用すると、翌日の朝には「送料無料」で荷物が届きます。「プライム」会員向けサービスの「プライム・ナウ」であれば、1時間以内に商品を配達してくれるというスピーディーな新サービスも登場。「送料無料」や「即日配送」などに魅力を感じる利用者は多く、「プライム」は世界的に顧客を増やしています。USAトゥデイによると、アメリカ合衆国では2015年の段階でほぼ半数の世帯が加入している計算なのだとか。日本での加入者数は公表されていませんが、利用者数が増加していることは間違いないようです。

 

長時間労働で疲弊するドライバー

 

以上のように近年のネット通販、とりわけアマゾンの荷物量増加がヤマトの現場に深刻な状況をもたらしました。急増する荷物量をさばくために、ドライバーは長時間労働をせざるを得ない状態が続いています。トラックに積み込まれるのはドライバーひとりが1日に配達できる量をはるかに超えた荷物。とはいえ、配送し続けなければ荷物は溜まる一方です。また、不在による再配達比率はおよそ15~20%とも言われ、ドライバーの負担がさらに増えることになり、長時間労働や残業を招いていました。

背景にあるのはドライバー不足の問題です。急速な少子高齢化で人手不足といわれる昨今。トラック運転手には体力が必要なため比較的若手を求める傾向にありますが希望者が少なく、ドライバーの確保が難しい状況です。国土交通省が2008年に発表した報告書でドライバー不足が深刻化すると推測した、いわゆる『2015年問題』の通り、ヤマトだけでなく物流業界全体にとってドライバー不足は大きな課題となっています。

 

サービス残業代未払い額は190億円に

 

さらにヤマトで問題が表出したのが、これらの労働環境問題だけではなくサービス残業が常態化していたことでした。2016年8月、ヤマトは横浜市の支店に勤務していたセールスドライバー2名について、横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けていました。休憩時間を適切にとらせていなかったことや、残業代の一部を支払っていなかったためです。

これを機にヤマトは、約7万6000人の全社員を対象に未払い残業代の調査を行い、支払うべき未支給分はすべて支払うことを決定。現在も調査は継続していますが、未払い残業代は少なくとも190億円にのぼることが判明しました。対象社員の約4万7000人には一時金として速やかに支払われる予定です。ヤマトの2017年3月期の営業利益は約580億の見通しでしたが、未払い残業代を含めた費用を計上したことで大幅な下方修正となり、最終的な営業利益は340億円になるとみられます。

── スマホ利用によるネット通販で増え続ける荷物量に対し、人手不足と不在による再配達の増加で疲弊するドライバー。「ネコロジー」と銘打った自転車式リヤカーを操るドライバーの姿を見かけた人も多いことでしょう。ヤマトが環境問題に企業努力をしていることは理解できますが、肝心のドライバーたちの労働環境の正常化を進め、サービス内容を検討する必要に迫られています。この危機的状況をどう脱出し、経営を立て直していくのか。私たち利用者にも大きくかかわる問題を次回も取り上げます。
参考:朝日新聞デジタル、国土交通省HP

≪記事作成ライター:山本義彦≫
東京在住。航空会社を定年退職後、介護福祉士の資格を取得。現在は社会福祉法人にて障がい者支援の仕事に携わる。28年に及ぶクラシック音楽の評論活動に加え、近年は社会問題に関する執筆も行う。


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