金融緩和政策解除に素直に踏み切れないECB 



今回は、欧州の経済見通しを考えたいと思います。2017年6月下旬に投稿した当レポートでは、ユーロ圏の経済は好調を維持しており、ECB(欧州中央銀行)はこれまで続けてきた資産購入縮小を早い時期に開始するのではとの見通しを示しました。
しかし、その見通しを少し修正しないといけないのではないかと思い始めました。

ドラギECB総裁は、6月27日ポルトガルで開催されたECBフォーラムの席で、デフレ圧力はリフレ(リフレーションとはデフレでもインフレでのなくその中間位置の物価圧力と解釈される。)に変わったとして、来年以降の資産購入縮小の示唆と市場は解釈しました。また、ECBは金融緩和策の調整については慎重になるべきとも語りました。
しかし翌日には、ECB当局者が過度に資産購入縮小を市場は期待しないように牽制を発しました。為替ではユーロ高が進む、市場がその方向に走ったことに対する牽制と言えます。ECBの金融政策の見通しに不透明感が漂う中で、8月下旬に開催された米国ワイオミング州ジャクソンホールでの経済シンポジウムに注目が集まり、ドラギ総裁の講演が予定されており、市場が注視しました。
しかし、金融政策の見通しについて何ら今後の見通しについて発言がありませんでした。市場にはECBが資産購入縮小に踏み切る時期の先送りと、金利政策で金利を引き上げるにはまだまだ時間を要するのではないのかと思惑が広がりました。

そんな中、9月7日ECBは定例理事会を開催しました。
声明文では、金融政策について、政策金利:0.0%、預金金利:-0.40%、貸出金利:0.25%と据え置きを決定しました。6月8日の声明文では利下げを示唆するガイダンスは削除したことから、今後の政策金利の変更は利上げ以外にないと言えます。
そんな中での今回の定例理事会、また資産購入縮小(テーパリング)については秋に政策調整を決定すると発言しました。
そして極めて大規模な金融政策が必要とも語り、資産購入縮小には慎重姿勢を取りました。これは、6月27日のECBフォーラムと同様の表現とも言えると思います。
それでは、現状のユーロ圏経済、インフレ率をECBはどのように予想しているのでしょうか?今回、同時に発表されたECBのスタッフ予想では総じて経済見通し、インフレ見通し共に大きく上昇するとは見ていないようです。2017年GDP(域内総生産):2.2%(6月時点:1.9%)、2018年:1.8%(1.8%)、2019年:1.7%(1.7%)と今年がピークのような見通しとなっています。
またインフレ率予想では、2017年:1.5%(6月時点:1.5%)、2018年:1.2%(1.3%)、2019年:1.5%(1.6%)と、こちらも今年がピークのような見通しとなっています。ユーロ圏消費者物価指数の推移を見ると、今年は2月の2.0%が最も高い水準で、現在は1.5%前後で落ち着いています。為替がユーロ高に推移しており、これは物価圧力を押し下げています。
今後もユーロ高相場が長期に続くと仮定すると、物価上昇圧力は退潮してしまいます。そういった事が、来年以降の低インフレの根拠となっているようです。
下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、ECBの経済成長とインフレ見通しを示していることが、グラフにすると分かりやすくなっています。
トレンドを各年のそれぞれの見通しを見ると、来年、再来年共に、経済成長(GDP)、インフレ共に大きく伸びない予想となっています。特にインフレの見通しが、ECBインフレ目標の2.0%にまで上昇しないと予想していることが重要になっています。2018年、2019年共に1.5%を大きく上回らない予想となっていますが、これでは少なくとも政策金利を引き上げる素地は少ないのではないのかと言えます。政策金利引き上げ予想に基づいたユーロ高方向の為替市場ではないかと言えます。それでは何がユーロ高相場を押し上げているかと言えば、資産購入縮小(テーパリング)期待が市場にはあり、それが来年1月に始まるか、それとも来年1月以降に先送りになるのかにかかっています。この要因の如何により、ユーロ高相場を押し上げていると言えます。

前回2017年6月29日付レポートでも紹介しましたが、ECBは現在4兆ユーロを上回る資産を保有しています。
そして少なくとも今年12月までは、月額600億ユーロの資産を購入する予定です。月額600億ユーロの国債等の資産を購入するので、ユーロ圏各国の国債は品薄状態になることも考えられます。ユーロ圏各国は財政を補うために国債発行を続けるのですが、購入してくれるECBという中央銀行であれば、安心して発行を続けることができます。
しかしECBが購入を縮小する事態になれば、主要国債購入者が減ることになり、国債は投資家の人気を失い、利回り上昇の要因となります。
昨日のドラギ総裁の発言から、秋(10月26日)に来年以降の政策調整を決定するものの、極めて大規模な金融緩和が必要だとも述べています。このことは一概に1月から即資産購入縮小が実施されるとも言い切れないのではないのかと思います。あくまでも経済成長、インフレ見通しの両方を監視し、そしてそれに大きく影響を及ぼす為替相場も監視して行く方針であると、ドラギ総裁は言っているようです。債券市場では独連邦債10年0.30%と8月上旬の0.50%近辺からは利回り低下の動きとなっており、品薄状態、つまりECBがまだまだ購入してくれるという期待感を示しています。

それではユーロ為替相場を見てみましょう。
下記はユーロ/ドルの月足チャートです。長期の流れを見るのに役に立ちます。チャートでは約10年の期間を表していて、去年から今年前半にかけては1.05~1.10の範囲で推移する傾向にありました。
しかしECBの量的緩和解除(資産購入縮小)観測から、ユーロ高で推移しています。また、米国長期金利がそれ程上昇しないという金融情勢からのドル安相場が後押ししています。
ECBが恐れているのは、2014年初の1.35方向(緑丸部分)へのユーロ高に向うのではないのかという危惧です。当然ユーロ高が輸出中心のユーロ経済を景気後退局面へと押し下げ、2.0%のECB物価目標も達成困難となります。ドラギ総裁以下、ECBメンバーが為替に非常に注意していると言え、私見的には、今後は米金利上昇の局面に向えばドル高局面となり、必然的にユーロ安局面となるのではないかと推測します。
そしてECBが資産購入縮小を先送りすることになれば、ユーロ安相場が更に続くことも考えられます。そうなればドラギ総裁の思惑通りとなります。

ECBが金融緩和措置解除の動きにならなければ、欧州の株式市場は活況を呈します。現に独DAX指数は約12,000と最高値圏にあります。
しかしユーロ高局面から、景気低迷の急速に株式が悪化することも考えられるので、不安定な金融市場になってしまうことも予想されます。
ミドルリスク・ミドルリターンのクラウド商品は常に適切な割合でポートフォリオに組み込むことは重要であると、私は思いました。

«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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