隠れた人気商品 ── “ノックイン債”の甘い罠


神戸製鋼所のデータ改ざん

神戸製鋼所のデータ改ざんにみられる不正事件は、多くの取引先を慌てさせましたが、まったく別の理由で泣いている人もいます。それは神戸製鋼所の株価を対象にした「ノックイン債」と呼ばれる商品を買った人々です。
この商品が完売した直後に株価は暴落……。完売早々、ノックイン事由が発生したこの商品も元本割れの危機に陥っています。一見、安全かつ高利回りに思える「ノックイン債」。実は「買ってはいけない」と、あちらこちらのブログ等で警鐘が鳴らされています。
── 今回の事例をもとに、何が危ないのか、考えてみましょう。

株価25%は、そう下がらない?

「ノックイン債」と呼ばれるこの商品には、「他社株転換条項付 円建債券(期限前償還条項付・デジタル型・ノックイン条項付)対象株式:株式会社神戸製鋼所 普通株式」という難しい正式名称があります。「ノックイン債」はフィンランド地方金融公社が発行している債権で、この公社自体の格付けは、Aa1(Moodyʼs)/AA+(S&P)。要するに「1年半の間、神戸製鋼所の株価を判定基準にして利率を決める、比較的安全な債券ですよ」ということになります。

一般的には、「期間中に日経平均株価が25%下がらなければ」という条件がついたうえで、高利回りを約束する「ノックイン債」。「現在の日経平均株価が2万2000円に届くか届かないかの状況下、マイナス25%は1万6500円相当。さすがにそこまでは下がらないだろう……」と見込んで投資する人が多い、隠れた人気商品なのです。

また、8月末に即日完売した今商品の場合、「神戸製鋼所の株価が1年半の間に25%以上下がらなければ」という条件がついていました。
同商品の設定日である2017年8月末の神戸製鋼所の株価は1300円前後でしたから、「その水準からすると1000円を切らないとノックイン事由にはあたらない。そのくらいのリスクはとってもいいのではないか」と、この商品を買われた方は思ったことでしょう。しかし、そこには投資の基本中の基本、二つの落とし穴がありました。

●一点目)上がったものは、いつかは下がる。1年半先のことは誰にも予測できない。
●二点目)株の世界で使い古された言葉。株には「上り坂」「下り坂」、そしてもう一つの「さか」である「まさか」が存在する。

投資家にとって最も好ましくない事態

今回の件を、もう少し詳しく見てみましょう。

期間中、6カ月ごとに訪れる判定日にそれぞれ株価が設定時価格の85%以上の場合、めでたく7%の利益を得ることができます。75%以上の場合は0.5%が適用されます。ただし、設定時価格から株価が一度でも25%を超えて下がった場合、神戸製鋼所の株式で償還されます(終償還日に100%を超えていた場合、当初の投資価格のまま現金で償還)。
この「25%を超えて下がる」が「ノックイン事由」と呼ばれ、投資家にとって最も好ましくない事態なのです。

ノックイン事由

しかし今年8月末に即日完売したものの、9月末には神戸製鋼所による組織ぐるみのデータ改ざんが発覚。その不正問題から、株価は800円すれすれまで暴落することになります(この記事を書いている11月初旬には、少し戻して1000円くらいで推移しています)。

つまり、先に記したもう一つの「さか」である「まさか」が本当に起きてしまい、投資家にとって最も好ましくない事態「ノックイン事由」が発生してしまったわけです。いったいどうなってしまうのでしょうか。

ノックイン事由発生

次に、この商品を100万円分購入した場合、どうなるかを見ていきましょう。

証券会社のパンフレットに従って、8月末当時の株価を仮に1334円とすると、神戸製鋼所の株式、700株相当と端数6万円の現金がこの商品100万円分の当初の価値です。11月初旬の株価が1000円前後ですから、価値は……、
1000×700+6=76万円で(途中段階ですが)24万円の大損をしていることになります。

1年半の間、最高の条件7%で回っても、利金は10万円そこそこにしかならないのに、大損はちゃんとする仕組みなのです。さらに、たとえ1年半後に株価が急回復して2000円になっていたとしても、一度「ノックイン事由」が発生しているので、100%の償還で儲けは1円もありません。これなら最初から神戸製鋼所の株式を購入したほうが、自分のタイミングで損切り、利確ができるというものです。

ハイリスクローリターン

まだまだ投資家にとって不利な条件は続きます。

それは、「3カ月ごとにやってくる早期償還判定日に、株価が105%以上になっていたら、その時点で100%の現金を返して終わりにする」という条件です。
ちょっと上がりそうになったらチャラ!? 株価は105%になっているのに105%ではなく元の100%で返すなんて、いったいどういうことなのでしょうか。さらにこの商品の場合、15パーセント以上下がったら、利子がいきなり0.5%に減るなど、どこまでも証券会社側がリスクを負いたくない“臭い”がプンプン漂っています。

── こんなハイリスク・ローリターンな商品は、株式投資にあまり明るくない人に対して、
〈日本を代表するような老舗企業の株価が25%下がるなんてまずないので、元本保証みたいなものですよ。それでいて7%の利子が得られる商品なんて、いまどきありませんよ〉
上記のような売り込みでもしない限り、複数日ある売り出し期間の初日で即日完売なんてありえないと思うのですが……。さて、みなさんはどのようにお考えになりますか?

≪記事作成ライター:前田英彦≫
同志社大学工学部(現理工学部)出身。株式会社リクルートに11年間在籍、広報室マネジャーなどを経て独立。数々の起業家、創業経営者との出会いを通して、日々成長中。独立時に設立した会社は現在18期目を迎えている。「『レジを打ったことのない人間に小売りの何がわかる!』と流通業の顧客に言われて悔しかったことがきっかけで、たい焼き屋も展開。大学を卒業して30年。突如理系仕事に目覚め、最近では製造業の職人になってしまったという噂も。ダルメシアン、テニス、ゆで卵を愛す。


再生エネルギーならクラウドバンク

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です