トランプ大統領の心変わり!


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トランプ米大統領の大統領選挙当時の政策公約が、先週末開催のスイス・ダボス会議での演説内容と大きく180度転換となっており、筆者のみならず、多くの人々が驚きを隠せません。

二つの公約に大きく変化があります。一つはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)へ復帰したいとの発言と、気候変動に関するパリ協定へも復帰したいと発言していることです。
今回のレポートでは、どうして復帰したいのかを数字の裏付けと政治模様の変化をもとに進めたいと思います。この場ではTPPへの復帰希望を出したことについて言及します。
もう一つのパリ協定とは、温暖化の原因になっている二酸化炭素の排出を世界的に抑制しようというもので、米国内で議論されたカナダとの国境を跨いだ石油パイプラインの敷設、そしてシェールオイル・ガス業者から支持を得ようと、大統領選挙の公約としてパリ協定脱退を宣言していた経緯があります。

それでは、TPPについて話を進めたいと思います。
TPPとはTrans-Pacific Partnershipの略であり、当初米国を含めた環太平洋の12ヶ国で関税などを相互に廃止し、公正で自由な貿易を目指した経済連携協定を目指したものでした。それが一昨年の大統領選挙で、アメリカ・ファースト(米国優先主義)を主張するトランプ大統領が選挙公約として打ち出しました。
日本、メキシコ、カナダを主なターゲットとして、不公正な貿易協定には参加できないと主張していました。特にNAFTA(北米自由協定)からも脱退するなどはトランプ流らしく、トランプ支持基盤のご機嫌を伺った貿易方針に大きく舵を切ったと言えます。
NAFTAに関しては、特にメキシコとの貿易や自動車の輸入に関して、メキシコの賃金安の結果、米国内の自動車業界に損害をもたらすとして協定脱退を持ち出し、ミシガン州等のラストベルト地帯の中産階級労働者を喜ばせる結果となります。そしてTPP脱退を宣言しました。
これに失望した米国を除いたTPP加盟国の11ヶ国で独自にTPP協定を発布に向けて着実な協定実施を目指し、特に日本は茂木経済再生相を中心に進めているようです。筆者は昨年末茂木大臣の講演を聞きに行き、ベトナムのダナンで各国との壮絶な交渉があったと告白されていました。TPPに米国が復帰すると、世界の国内総生産(GDP)が13%から40%近くに増え、下段で論述する中国に対抗することができるのです。

そんなことで米国は参加しないことを前提にTPP交渉を進めていましたが、トランプ大統領は突然の心変わりです。それには、TPP各国と協力して行かないと中国には対抗できないと確信したのではないかと思います。
中国は環太平洋の国々とは、オーストラリア、ニュージーランドなど資源国との間の貿易を拡大しています。そして東南アジア諸国とは、中国が世界の工場との魅力が失せた後の世界の工場としての地位として、深いつながりがあります。
そしてユーラシア大陸の東と西の貿易促進、さらにこの地域の経済基盤を強固にするとの目的から、国家的に「一帯一路」の政策を、中国中心に設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)を金融面からサポートし、益々中国の存在感を高めています。
そして米国は慢性的に対中国との貿易赤字が膨らむ傾向にあります。米国は今年に入り、貿易収支の赤字傾向を減らそうとの動きを強めています。

下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は米国の貿易収支(商品貿易収支)の2008年から直近の動きを示しています。米商務省発表11月貿易収支504億9700万ドルの赤字となっています。
グラフでは、2009年から2010年にかけて、リーマンショックの影響から、貿易が不活発であった結果、貿易赤字の縮小したことが伺えます。そしてその後経済成長が続いた結果、貿易赤字も増えたことが言えます。現在では年間7,000億ドルの貿易赤字を計上している現実があります。

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そしてこの内の約半分が対中国貿易によるものです。下記グラフ(出所:米商務省資料より)は、その内訳です。2年前の数字ですが、対中国の貿易赤字が47.3%を占めています。
 
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TPP関連の国々としては、対日赤字:9.4%、対メキシコ赤字:8.6%となっています。この3ヶ国の貿易赤字に占める割合は、65.3%となります。アメリカ・ファーストと、米国の利益を最優先する政策をとるトランプ大統領としては、どうしてもこれらの国との貿易赤字を縮小させたいのでしょう。
このために、先ずはTPP復帰に向けら動きになったのではと思います。共通の自由な民主主義の国々との貿易関係の改善を目指す動きに出てと言えます。個別に各国とそれぞれの貿易協定を結ぶよりも、TPP諸国との貿易関係の改善と言う方向に向かったのではと考えます。
唐突にTPP復帰の可能性を示唆するとは、ディールを重視するトランプ大統領としては、少々弱気のような気もします。環太平洋の諸国との貿易関係を固めることで、次のターゲットは中国であると言えます。ディール上手のトランプ大統領としては、交渉の過程で日本との交渉でも、これまで以上のディールを持ちかけてくると想像されます。
支援者に分かりやすい自動車、そして農産物の数量規制で、相当にきつい数字を求めてくることが予想されています。それが足元の不安定なトランプ政権としても、今年11月の中間選挙を意識した動きではと思います。オバマ政権時代の産物を最初は絶対反対として大統領選挙を乗り切り、そして政権奪取から1年経過して、復帰したいと意思表明しました。

TPP復帰交渉と同時に進めるのではと思われるのが、対中国との貿易赤字縮小を公約するのは自明の理のようです。こちらも中間選挙を意識した動きと言えます。対中国赤字は年間約3,300億ドル相当です。これだけの年間貿易赤字つまり中国から見れば貿易黒字計上となります。これを米国債に投資する外貨準備金の原資になると推測されます。
米財政収支の相当部分が中国マネーに支配されることになるでしょう。政治的にも中国との関係が一変しているようです。対南シナ海、対北朝鮮問題で、中国との関係は昨年の蜜月時代とは一変しているようです。
政治的にも中国に支配されたくないというトランプ大統領のプライド、米国が世界の警察官として君臨したいという従来の方針から、オバマ政権時代の政権方針に戻ってくるのではとの観測もあるようです。

今年の米国金融市場は、FRB(米連邦準備理事会)の金融政策に翻弄されるのではなく、トランプ大統領の政治・経済政策に左右される動きになるのではと、筆者は警戒しています。その一端が、今回のTPP復帰希望、そして中国との貿易集赤字改善に向けた動きと言えます。注視しましょう。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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