トランプ大統領の思惑が働く原油高


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原油価格が上昇を続けています。アメリカの政治模様、つまりトランプ大統領の思惑が強く反映しているのではないかと筆者が考えています。その論拠をこのレポートで検証し、推測を進めてみたいと思います。
 

原油価格は徐々に高騰

原油価格を見てみましょう。下記グラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)は過去1年間の原油価格(米国の代表的原油指標銘柄WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の推移を示しています。昨年は50ドル(1バレル当たり)を下回る価格で推移していました。しかし今年に入り60ドルに達し、そして現在は70ドル近辺で推移しているようです。
 
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原油価格形成要因としては、産油国の生産量に大きく依存します。産油国が生産量について協議する会議としてOPEC(石油輸出国機構)の場があります。最近の議題として、価格上昇を狙う意味から生産量と減らす動きがありました。生産量減産にはサウジアラビアの思惑が大きく働きます。
それに対して、イランは増産を主張しています。欧米からの経済制裁が解けたことから、原油を大幅増産し、外貨を稼ぎ、それをもとに経済を近代化させる狙いがあるようです。今月のOPEC総会では、名目で日量100万バレルの増産、実質的には日量70万バレル程度が推測されます。
イランの主張が通ったように思われますが、サウジアラビアも、現在は外貨不足に陥りそうな模様であり、大きな減産はしたくないのが本音のようです。スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランは政治的、宗教的に対立の構図にあるようで、一筋縄では行きません。そして、そこに絡んでくるのがトランプ大統領率いる米国です。

アメリカの思惑と対イラン制裁

トランプ大統領はイスラエルへの肩入れを米大統領選挙の公約としていました。米国ではユダヤ人が経済界を牛耳っており、閣僚内にはムニューシン財務長官、そして娘のイバンカさんの婿クシュナー氏など多くの重要ポジションに配置されています。
歴代大統領が躊躇していたイスラエルの米国大使館をテルアビブからユダヤ教、キリスト教そしてイスラム教の聖地であるエルサレムに強行に移転を決定し、今年実行してもいます。これもユダヤ人からの支持を得る目的のためであると言えます。また中間白人層の支持を得られることも計算づくのように思います。
そしてイスラエルの目の敵にあるのがイランと言えます。トランプ大統領は、欧州の各国と共同でイランと交わしていた核合意に離脱すると表明しました。これはイランへの経済制裁を復活させる目的です。そして、トランプ大統領はイラン以外の産油国に増産を求める構えのようです。
それと同時に、米国の同盟国に対して、イランからは原油を購入しないように求めています。日本は原油輸入の約5%をイランから輸入していますので、トランプ大統領の盟友として安倍首相がリクエストに応えるかに注目が集まることになります。

そこで筆者は下記のグラフ(出所:ウォールストリートジャーナル紙)で、米国ファーストという米国の利益優先を政策の最優先とするトランプ大統領の政治的・経済的思惑を垣間見た気がしました。グラフは、米国の原油の輸出量を2013年から現在に至るまでを示しています。
これを見ると2016年までは、50万バレル(日量)前後であったところが、2017年からは急速に輸出量が右肩上がりとなり、現在は300万バレル(日量)まで達していると言えます。トランプ大統領がこの数字と傾向を確認したかは定かではありませんが、着実に原油輸出を増やしていることがわかります。
 
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貿易赤字解消のため、日本にも負担を強いる?

現在米国はトランプ大統領のもと、巨額な貿易赤字を解消しようと、あらゆる策を駆使しています。特に対中国の貿易赤字を減らすために、関税を課す方針を明確にしています。欧米、日本を巻き込んだ貿易摩擦は過激化しています。
そして、相手国の輸入を増やすという意味では、米国産原油輸出も一つの解決策であるとトランプ大統領が考えていても不思議でないのです。原油高が続く中、中国に対して、イラン産原油の輸入から、米国産原油の輸入に切り換えるように圧力をかけることも選択肢の一つではないかと思いますが、中国は明確に拒否の姿勢のようです。
ディールが全てのトランプ大統領。日本にもこの方式を求めてくることも考えられるのではないかと思います。
 
米国内の原油生産の現状を見てみましょう。オバマ政権時にシェールオイル・ガスの生産が話題となりましたが、原油価格が50ドル(1バレル当たり)を下回る低価格の時代が続きました。地下の岩盤を圧縮し原油・ガスを抽出するシェールオイル・ガスの掘削方式では、掘削に莫大はコストがかかり、およそ50~60ドルが採算ラインと言われているのですが、現在の原油価格は採算ラインを越えてきている状態です。
そして、シェールオイル・ガス掘削の業者は、トランプ大統領の支持基盤である共和党白人層の多く住むテキサスなど南部が多いと言います。トランプ大統領は、カナダへの原油パイプラインの建設再開を許可したことは有名です。
そして、中国を含めて、イラン産原油の輸入を各国に禁輸を要請し、米国産原油つまりシェールオイルに切り換えるように要請することが選択肢に入ってくることも考えられます。米シェールオイル・ガス業者を喜ばせることになり、そしてトランプ大統領は、今年11月の中間選挙では民主党よりも優位に立てるとの打算が働くのではと思います。
 
商品全般を見ると、興味深いことが分かります。リスク回避の有力商品である金価格は、現在1,250ドル(1オンス当たり)であり、一時の1,300ドル以上の水準からは、低位に位置します。ドル金利が上昇していることから魅力が薄れていることも関係しているのですが、リスク回避の金融市場には至っていないとも解釈できます。
そして商品相場の総合指標であるCRB指数は上昇傾向にあるものの、200の水準を下回っていて、その意味では原油が現在商品相場の中では独歩高にあると言えます。

まとめ

まとめると、米国ファーストと政治・経済的に自国利益優勢の方針を打ち出しているトランプ大統領の思惑が色濃く反映している原油価格上昇の流れではないかと推測します。
中東でのイスラエル重視の姿勢、イランを目の敵にする姿勢、そして米中貿易摩擦の解決策の選択肢としての米国産原油輸出を持ち掛ける可能性、最後にテキサスを含めた中西部のシェールオイル・ガス生産者を満足させる策の中に位置しているのではないかと筆者は推測しています。このように考えると、原油価格上昇の勢いは当分続くのではと思われます。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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