経済が下降局面の状態、地政学的にリスクが高まってきているときに大きく反応するのが金相場、原油相場です。
経済には知識豊富でも、政治にはちょっと疎いという方もおられるのではないのでしょうか。景気動向に左右される鉄鉱石についても検証してみましょう。
定期的に貴金属相場、商品相場を当レポートでは取り上げております。
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【金相場】
リスクが高まると金が高騰する
昨年前半まではどちらかと言えば、リスク志向の金融市場でしたから、金利上昇、株価上昇が続きました。しかし昨年後半からは、米中貿易摩擦の影響からか、リスク回避志向の市場環境に変化してきました。
米中が双方貿易関税の掛け合い合戦となり、金相場はその影響を大きく受けました。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は今年4月からの金相場の対ドルでのチャートです。
5月ころまでは1,300ドル前後で推移していましたが、6月に入ると一気に価格上昇の動きとなりました。米中貿易戦争模様と、米中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)が利下げ実施の観測が強まり、一気にリスク回避モードが強まりました。
また地政学リスクも、イランと米国の対立が鮮明になりました。イランが先進国及び中国と締結していた非核散合意条約から米国が脱退し、対立が激化する要因となりました。
ホルムズ海峡でタンカーが襲撃される事件なども加わり、リスク度合いが強まることとなりました。8月から9月にかけては、1,550ドルを超える水準に達しました。
金は「リスク回避の申し子」
その時期は米国では、米中貿易戦争真っただ中。FRBへトランプ大統領の圧力を受けたかの見方もあり、利下げを連続して実施する政策をとりました。
金利が急降下の動きとなり、金相場に資金を移動する投資家が多かったように推測します。
金は保有していても、利子を生みません。金の延べ棒を金庫に保有していれば、世の中で経済危機や政治的変動が起きても価値が失われることはないため、リスク回避志向の権現とでもいう金融商品です。
9月半ば以降は、チャートでも示しているように、下げ基調にあるようです。リスク回避志向からリスク志向に戻りつつあるように思えます。
折しも、今月は米中貿易摩擦が一時休戦模様に移りつつあるようで、トランプ大統領が一部中国輸入品に関税率の引き上げを見送った要因が重なり合っています。
しかし、それも一時のことに変わりありません。中国第3四半期GDP(国内総生産)6.0%前年比と、これまでのような高い成長には陰りも見えます。中国にも景気後退懸念と言う弱みがあるようです。
米中貿易戦争は当分継続する見込み
このために米中貿易交渉は何としても良い結果にしなければ、という中国の意向も働いているようです。弱みを握っているトランプ大統領は得意の交渉術を行使して、良い取引をしているようにも見えます。
そんな空気を察した金融市場では、債券利回り上昇の、ダウ平均も大きく回復基調にあります。このために、金相場が現在下落する方向にあるようにも見えます。
しかし、米中の争っている根本要因であるハイテク分野、軍事力の覇権争いには変化がなく、主要製品の関税を元の鞘に戻すような動きになることには、かなりのハードルが予想されます。
折しもIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、今年の世界の成長率見通しを3.0%と、7月時点から0.2ポイント下方修正しています。中国の今年予想を6.1%、来年を5.8%と予想しています。
金相場はまだまだ波乱模様に思います。金相場が下げる(リスク回避モード)と株式市場上昇、債券利回り上昇、反対に金相場上昇(リスク志向モード)となると、株式市場下落、債券利回り下落の動きとなります。
【原油相場】
中東情勢も穏やかではない
原油相場も激しく動いています。下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、原油市場の指標であるWTI(ウエストテキサス・インターミディエート)の今年の価格推移を示しています。
原油相場はまず、中東情勢の動きに大きく左右されます。そして米国経済の景況感から、消費者がガソリン需要に見合う旺盛な消費意欲を示すか否か、というのが変動要因です。
米国で毎週発表される週間原油在庫統計では、5月頃65ドル近辺まで一時期急上昇する動きを示しました。これはイランと米国の対立が主因と言えます。
そして9月から10月の変動要因としては、サウジアラビアの石油精製所が、イランが支援していると推測される過激派組織の襲撃により、炎上しました。このために再び65ドルに迫るチャートを形成しています。(赤丸部分)
原油精製が長期に渡り停止すると推測されましたが、1か月位で以前の精製能力に戻るとのサウジアラビア政府からの発表に、原油価格が低下することになりました。
今後の原油の動き
今後の原油の動きとして注意するべきことは、
①米中通商交渉が今後どのように進むか、その結果、米景気がどのように進んでいくのか。
②中東情勢には引き続き注意を。
と言ったところではないかと思います。
注目すべきはチャート上の赤線サポートを下回っていくかどうかで、世界の景気が良好に推移すれば原油需要が広がり、価格上昇の動きもみられるのではと思います。
米国のシェールオイル・ガスの生産者は50~60ドルが採算ラインを言われており、大きくは下がらない原油相場展開を期待しています。(トランプ支持者が多い地域だけに、政治的な匂いもしますが。)
【鉄鉱石相場】
製造業の米の一つと言えるのが鉄鉱石です。そしてその価格は経済の動向に敏感に反映されます。
下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は今年一年の価格の推移を示しています。
6月~7月の頃には800ドルを超える水準でしたが、現在は600ドルに向かう右肩下がりの価格動向となっています。
今年前半は中国の景気の落ち込みがそれほどでもないという期待感、米国も堅調に推移する景況感であることから、鉄鉱石価格が上昇する動きであったようです。
しかしその後、中国経済の悲観論が台頭することとなりました。今後の動きは、やはり米中通商交渉の行方の、中国経済の動向に大きく左右されることになると思います。楽観論は禁物のようです。
まとめ
リスク度合い、景気動向に大きく左右される金、原油、鉄鉱石の現状を今回解説しました。それぞれの商品の特徴を理解し、今どのような金融市場環境にあるのかについてそのヒントを見つけましょう。
その上で皆さんのポートフォリオの構成をリスク回避モードにすべきか、リスク志向モードにするか、その価格動向を参考にしましょう。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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