複雑な国際情勢が絡み合う原油高!


クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

今年に入って原油価格が上昇しています。筆者は昨年11月の当レポートで、サウジアラビアとロシアの増産、そして世界経済の後退懸念から原油価格が下落していると説明しました。

そんな状況が年末まで続きましたが、今年に入ってからは原油価格上昇の動きが鮮明になっています。そこには複雑な国際情勢が絡み合っているので、今回はそれぞれを紐解いて解説してみたいと考えています。

WTIの価格推移

下記グラフ(出所:ウォール・ストリート・ジャーナル紙)をご覧ください。グラフは原油価格の代表的市場であるウエスト・テキサス・インターミーディエート通称WTIの価格の一年の推移を示しています。今年1月中旬から一貫して価格上昇の推移を辿っていましたが、昨年の10月高値から急落し、そして上昇に転じていることが分かります。そして、現在は65ドル前後に位置しています。上昇の要因には国際情勢の変化があり、そこには米国の反自由主義国に対しての制裁が大きく関わっているのです。
クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

原油生産の日量

まずは世界の原油生産の現状を参考にしたいと思います。下記グラフ(出所:OGJ誌)は2017年の各国別に日量をバレル単位で示しています。、いくつかの国を例に挙げると、原油生産の日量はベネズエラ:201万バレル(2.6%)、イラン:379万バレル(4.8%)、リビア76万バレル(1.0%)、そして米国が923万バレル(11.7%)となっています。
これを見ると、紛争地域であるベネズエラ、イランそしてリビアの原油生産の割合は相対的に低くなってきていることがわかります。また、世界の警察官的立場である米国が2018年現在では世界一の原油生産量になったことには、シェールオイルの生産がここ10年で倍増した影響が大きいようです。
そしてこのグラフで分かることは、ロシアの原油生産量比率が大きいことです。

OPEC(石油輸出国機構)諸国と非OPEC諸国に色分けしているのですが、非OPEC諸国の中でロシアは米国と並ぶ原油生産大国と言えます。ロシアは外貨の稼ぐ原油輸出の比率が大きいことから、原油価格の変動により国家の財政状況に大きく左右されるのです。
クリミア半島のロシアへの併合を西側諸国は認めていないため西欧諸国からの経済制裁を受け、その結果輸出がままならない状況が続いています。そのことはプーチン大統領には心強い原油高と推測します。
クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

原油生産の不安定要因

① ベネズエラの政権を巡った動き

チャベス前大統領が死去し後を引き継いだマドゥロ現大統領はバス運転手出身で、独裁的な政権運営をしており反米・強権政治を続けています。マドゥロ大統領は医療費無料にするなどして一部貧困層からは人気を得ている一方で、経済は疲弊しておりインフレ率は桁外れな数字となっているのです。
そんな中、生活難から隣国コロンビアやブラジルに逃げるベネズエラ人が多い政治状況を打開しようと立ち上がったのがグアイド国会議長で、欧米諸国からは暫定大統領として承認を受けています。米国はマドゥロ大統領政権が続く限りベネズエラ産の原油の輸入を禁止しています。
経済が疲弊している状況では原油生産がままならないのが現状で、原油精製施設自体が陳腐化しているとの話もあります。欧米諸国は早期の政権交代を画策しており、グアイド国会議長が正式な大統領に就任する方向で動いているようです。
これに対して、ロシア、中国はマドゥロ政権の支持を表明しており米国との対立を強めているのが現状です。米国としては米国の裏庭で起こっている政情不安には我慢がならないようで、2月以降の原油価格上昇に大きく関わっている事象と考えられます。また、政権交代の糸口が見いだせていなく依然としてベネズエラ情勢は不透明と言えます。

② 米国がイラン産原油の例外を認めない原油全面禁輸措置の発表

トランプ政権は昨年11月にイラン産原油を制裁対象としましたが、日中韓、台湾、インド、トルコ、イタリア、ギリシャの輸入は例外として認めていました。それがここに来て、特例措置は認めずに5月2日から全面禁輸となります。
イランの原油輸出の対象国とその量を下記グラフ(出所:ブルームバーグ)で示しました。グラフを見ると中国、韓国そしてインドの割合が多いことがわかり、中国とトルコが制裁同調には不透明と観測されています。
確かに上記全世界生産量を示したグラフではイラン原油生産の割合は低く、そして現在では日量110万バレルと2017年に比べて四分の一程度の生産になっており、世界全体の需要の1%程度の原油を代替調達する必要があるようです。
クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ
そもそも親イスラエルのトランプ政権は、オバマ政権時代とは全く異なる反イラン政策をとっています。イスラエルはイランが核開発をしていると主張しトランプ大統領はそれに同調していますが、世界の原油生産量を眺めればそんなに影響がないと言えます。

③ リビア政権不安情勢

2011年カダフィ政権が崩壊して以来内戦状態にあり、国連支援の暫定政権と反体制派のリビア国民軍との対立が深刻化しています。先週、リビア国営会社会長は原油生産を全面的に停止する可能性があるとしました。リビアの原油生産量は石油全体の生産高の1%程度ですが、投資家は敏感に反応するでしょう。

上記のような原油生産の不安定要因から、サウジアラビア、UAEが原油増産に踏み切るとの期待感があります。サウジアラビアは、昨年11月に起きたサウジアラビア人ジャーナリストの殺害にサルマン皇太子が関与しているのではないかとの疑いを米国は抱いています。
サウジアラビアはイランとはイスラム宗派の違いにより伝統的に敵対している上に、米国の同盟国ということもありこの問題の解決を急がなければなりません。その意味では、原油増産により米国との友好関係を保ちたいところで、軍事同盟も地政学的に重要です。

シェールオイル・ガス

米国の思惑としてはオバマ政権以来、シェールオイル・ガス生産に力を入れており、その結果現在は世界一の原油生産高になっていると思われます。シェールオイルの採算価格は50~60ドル(1バレル当たり)近辺と言えますが、50ドルを下回っていた時にはシェールオイル・ガス会社の業績悪化が株式市場でも懸念されました。
トランプ大統領は、共和党の地盤であるテキサス、中西部のシェールオイル・ガス生産地域を経済状況にことさら注視しているため、現在の価格上昇は支持基盤層を喜ばせることにつながり来年の大統領選挙には追い風になると期待しているのではと推測します。

まとめ

原油価格は、様々な国際情勢により大きく変動するもので、地政学的リスク、政治のパワーバランスの揺れ動きに大きく左右されます。そしてそのカギを握っているのは大国である米中ロシアであると思われます。自国中心の政治経済運営が最近の流れであり、紛争地域にどのようにテコ入れするかに注目することで簡単には解決の糸口を見いだせない問題と言えるのです。

このことを認識して、原油動向を見守りたいと思います。現状では上昇を続ける原油価格と言えますが、それは直接的に世界のインフレを上昇させ、グローバルな金利低下の動きの中で注目しないといけません。引き続き原油価格を監視していきましょう。

クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


クラウドバンク

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です