筆者は金利ディーラーの経験も長く、金融市場の動き、嗅覚と言うか、それぞれの金融商品の動きを読むのに、羅針盤として大いに参考にしています。そしてドル金利は金利ディーラーにとっては、主役に君臨する4番バッターと言えます。
まずはドル長期金利の動きを見ましょう。3月15日のFOMC(米連邦公開市場委員会)の利上げ前後には10年米国債利回り2.50%をつけていました。FOMC直前の時期には利回り最高値2.62%をつけていました。そして利上げ発表。昨年12月に続き、予想通りの利上げとなりました。政策金利のフェッド・ファンド誘導目標を0.25%引き上げ、0.75%~1.00%としました。誘導目標上限1.00%が一般的なFRB(米連邦準備理事会)の政策金利と言われています。
しかし、金利についても、「噂で買って、事実で売る。」との市場の習性から、FOMCでは利上げ決定までは、利回り上昇、そして利上げ発表後は利食い売りに押されて、利回り低下の動きとなっています。今日現在2.21%となっています。しかし米経済そのものは、好調さを維持していると言えます。
直近の米雇用統計では、3月非農業部門雇用者数9.8万人増と予想より悪い数字、しかし失業率4.5%とこちらは極めて良い数字と言えます。3月は米国では降雪が多く、その影響ではと推測されています。前月の数字は23.5万人増から21.9万人増と下方修正されているものの、良い数字となっている。そして3月消費者物価指数2.5%前年比、コア2.0%前年比と、FRBのインフレ目標2.0%とほぼ同水準と言えます。
昨日発表のベイジュブック(米地区連銀経済報告と呼ばれ、FOMCの2週間前に発表され、FOMCでの議論のたたき台とされる。)では、米経済は2月中旬から3月末まで緩やかに適度な程度上昇したと記述され、米経済が引き続き好調に推移していると報告されています。このことからは、2週間後のFOMCでは「米経済には利上げの議論があるのでは」と推測されます。しかし、その動きに待ったをかける動きがあります。
それは、トランプ政権のFRBに対する牽制、そしてシリア情勢、そして北朝鮮情勢の緊迫感、そして欧州の選挙政治の年に当たることが関係しているようです。トランプ大統領は、自国経済最優先の、米国ファーストの政治・経済の政策運営方針のようです。米経済つまり米企業に対して万遍なく血液を注ぎ込むためには、低金利政策が必要です。そのために、FRBには低金利政策を続けることが好ましいと発言されています。
ホワイトハウスには先週イエレンFRB議長を招いて、懇談したようです。そして「イエレン議長が好きであり、尊敬している。」と発言していることから、イエレン議長を持ち上げつつ、低金利政策を迫っているように思えます。来年3月で任期が切れるイエレン議長ですが、任期延長との観測も出てきています。経済のファンダメンタルズと、政治の匂いのする駆け引きが続き、それに市場参加者が反応していると言えます。
そして、ここに来て、米国が世界の警察官としての存在感が増していることに、米国債も反応しているようです。シリアに対する攻撃、そして北朝鮮に対する軍事圧力が増している現在、筆者は中国との間で、バーター取引をしたのではと推察しております。
トランプ大統領は、習近平中国主席との会談で、「中国は北朝鮮への経済・政治圧力をこれまで以上に強く打って出る。その代わりに、米国は中国を為替操作国とはみなさない。そして南シナ海での中国の行動に多くを語らない。」との取引をしたのではないかと。先週米財務省が発表した為替操作報告書では、トランプ政権が公言していた中国の為替操作国は持ち出していません。トランプ政権の妙な様変わりに筆者は驚いています。それ程、中国の北朝鮮への圧力が必要だったのでしょう。これもトランプ流ビジネスライクの取引ではないのでしょうか。このシナリオでは米国の北朝鮮への直接の軍事行動はないのではと思われます。
一連の米国の行動はリスク回避の、安全資産である米国債への逃避資金として、債券価格上昇の利回り低下の動きと解釈されています。今週末の、フランス第一回大統領選挙、そしてここに来て、英国のメイ首相が2000年予定の総選挙を前倒しして、6月8日に実施すると突然の発表をし、市場を慌てさせています。このことも逃避的行動をとる資金の向かう先は、債券市場と言えます。
筆者は短期金利先物ユーロドル(3ヶ月物)の動きを注視して、金融市場全般の動きの参考にしています。下記(米CMEより)は12月限のちょっと長めのチャートです。現在価格98.57と利回りベースでは1.43%となっています。これは、市場で広く予想されている今後年内0.25%毎2回の利上げを織り込む水準である1.50%を下回っています。グラフの左丸部分は昨年12月FRB利上げ時の動きの部分ですが、ここは大きく下げています(金利先物では価格の下落は利回り上昇の動き)。
そしてしばらくして上昇の動き、そして3月利上げの時にも同様の動きが見られました。現在は利食いの買い戻し段階、そしてリスク回避行動をとる金融市場となっています。良く見ると、12月の利上げ前の時点の価格と同じになっていますね。
今後、北朝鮮情勢の変化、そして欧州の選挙情勢によっては、リスク回避行動の債券買い、金利先物買い戻しの動きが強まることも考えておかないといけないようです。そして米経済好調にも関わらず、外部要因の不安定材料から、FRB内部でも外部要因を金融政策に考慮すべきとの観測が出てきかねません。そうなると、年内2回の議論から、1回の議論との観測記事が出てくることになります。
市場は心理戦です。そしてFRBメンバーも外部反応を気にすることになります。地政学リスクという要因が収束に向かうと、再び利上げ議論で盛り上がることになります。この繰り返しをするのが、金融市場と言えます。
このように日本国外には、不安定要因が数多くある金融市場と言えます。リスク資産と言われる株式市場、そして高利回りの豪・ニュージーランド債券、そして現在2.20%前後の米国債投資も、為替がリスク回避の円高局面に向かう可能性があり、これも投資に躊躇してしまいます。5%前後のミドルリスク、ミドルリターンを狙ったクラウドファンド商品は、是非投資家のポートフォリオの一部として組み込むことを推奨したく思っています。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
Follow Us