6月14日開催の米FOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利であるフェッド・ファンド・レート(Fed Fund Rate)を0.25%引き上げ、誘導目標を1.00%~1.25%とする予測がたっております。FRB(米連邦準備理事会)の一連の利上げセッションが、去年の12月、そして今年3月と続き、3回目となります。そして今年に入り2回目にあたります。
今回の利上げ観測は、金融市場においては暗黙の了解と言えます。FRBの出した数字の中では雇用統計とインフレ指標を中心に見たいところですが、その前に米GDP(国内総生産)の数字を確認しておきましょう。
5月26日発表の第1四半期GDP改定値1.2%前期比年率と、1か月前発表の速報値0.7%からは大幅に上方修正されました。第4四半期GDP確報値2.1%から大幅に低い数字であったことから、景気が一時的低迷しているのではないかと、市場では懸念する声が出ていました。そうした懸念を払拭する改定値の良い数字となっています。
しかし、前期からの景気後退との懸念を完全には払しょくすることは出来ません。そもそも第4四半期の数字が元々良すぎたと、筆者は納得することにしています。
改めて、雇用統計の数字を確認しましょう。今月上旬発表の米雇用統計は、米失業率4.4%と引き続き改善傾向にあります。完全雇用に近いと言っても差し支えないかもしれません。トランプ大統領は米製造業が海外に移転し、その結果雇用が失われるとの懸念対策に、自動車産業などの雇用は米国内に確保する政策を打ち出しています。
金融業界、サービス業業界に失業懸念があるものの、製造業では雇用が確保されるわけですから、大きく失業率が上昇する状況ではないようです。そして4月の非農業部門雇用者数は、21.1万人増と良い数字です。3月の7.9万人増と市場にショックを与えた悪い数字の反動からか、再び20万人増の水準に戻っています。
今週金曜日には5月の数字が発表予定です。市場予想は、失業率4.4%、非農業部門雇用者数17.6万人増となっています。この数字から大きくかい離しない、つまり悪い数字にならない限り、6月14日利上げ観測がほぼ確実に実施されると市場は見なしています。
インフレ率を見ましょう。筆者は、FRBが重視するPCE(Personal Consumption Expenditure=個人消費支出)コアデフレーターに注目しています。3月PCEコアデフレーターは1.6%前年比となっています。先週発表された第1四半期PCEコアデフレーターは2.1%前期比年率となっています。FRBのインフレ目標は2.0%です。
両方の数字を見ると、第1四半期の2%を超える数字から、やや低下する動きになっています。昨年12月の数字と比較すると1.7%前年比となっており、0.1%だけ低くなりましたが、それ程懸念される数字ではないとの解釈もあるようです。このように、雇用統計、インフレ指標と、利上げを阻害する材料には当たらないのではと思います。
それでは、実際の市場金利を見ましょう。筆者は短期金利先物ユーロドル(3ヶ月物)の数字を判断材料としています。下記グラフは6月限のチャートです。金利先物では価格が低下すると利回りは上昇します。反対に価格が買われると利回りは下落すると言う点に注意してください。現在の価格は98.7525と利回りベースで1.2475%に位置します。3ヶ月物金利とFF Rateの誘導目標の上限金利との格差はほとんどないことから、今回0.25%の引き上げ観測水準の1.25%とほぼ一致します。つまりほぼ100%市場金利は織り込んでいると言えます。
市場でよく取り上げられるFedWatch(フェッド・ウォッチと呼ばれるFRBがFOMCで利上げする確率を示す。)では、現在82.4%という高い利上げ確率となっています。下記チャートでは、昨年12月と3月の利上げ時の部分に緑丸を付けています。そして今月の利上げ時の予想水準と利上げ時の予想される動きを示しました。これを見ると、前回、前々回の利上げ時には、「噂で売って、事実で買い戻す。」という相場の経験則が見事に当てはまっていますので、2度あることは3度あるのではと推測します。
FOMC開催時の6月14日に向けて、利上げ観測が強まり、金利上昇と価格低下の動きが予想されます。そして利上げ発表となると、急速に金利低下、つまり価格上昇の動きになるのではと予想します。為替では、利上げ発表後の局面でドル安方向も予想されます。今回はFOMCではイエレン議長の記者会見が行われるので、利上げ観測は非常に強くなります。これまでを例にとるとFRB議長が声明文とは別に、自らの口で利上げに至った経緯について説明するタイミングもありそうです。こんなことで、FF Rate:0.25%引き上げは市場では既に織り込み済みであり、発表後の動きもある程度予想されています。
利上げ方針に変わりはないものの、FRBが利上げと共に、FRBが保有する米国債を中心とした資産を縮小するかどうかに注目することになります。アメリカは現在約4.5兆ドルの資産を保有しています。現在は保有国債の償還利子と共に再投資する方針にあります。
この方針が、今年中に変化が出てくることになるかにどうか声明文の内容、そしてイエレン議長の発言を注視することになります。いわゆる量的緩和政策の「出口戦略」というものです。リーマンショック後の金融危機の過程の中で、FRBは積極的に国債等債券を購入して、市場に資金供給を続けてきました。
それが景気回復と同時に、1.5兆ドル程度の正常な資産保有額に戻す必要性が出てきます。資産購入を止め、市場に資金供給をしないということは、景気回復の過程では、資金供給不足となり、金利上昇の要因となるのではと推測します。政策金利FF Rate金利の上昇、そして技術的に米国債供給を縮小することでの金利上昇と、両要因から、これからのドル金利の上昇ペースは速くなることが、中期的に予想されます。
今年は年3回の利上げが予想されています。年後半では9月もしくは12月のイエレン議長の記者会見の行われるFOMC時が最も有力です。こちらも金利先物12月限を見ると、現在98.585と利回りベースで見ると1.415%となっています。FRBが1.25%から0.25%引き上げる水準には0.10%程足りていません。つまりまだ12月のFOMCの利上げに対しては、まだ織り込み水準には遥かに達していません。年後半からの米景気が後退する懸念、そして外部要因つまり欧州の政治リスクが高まるのではとの懸念、地政学的なリスクがひょっとして高まるのではとの懸念があるのでしょう。
こんなことを考えると、年後半は日本を含めたグローバルな株式市場の一時的低迷もある程度、予想されるのではと思います。年後半はキャピタルリスクを狙う金融商品には注意が必要となります。ミドルリスク・ミドルリターン商品を一定程度ポートフォリオに組み込むことは、中期的資産安全運用と言う意味で、改めて必要であると思います。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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