先週から地政学的リスクを意識する金融市場のようです。米中首脳会議が開催されているさなか、米国がシリアへの攻撃に踏み切りました。アサド政権が化学兵器を使用したというレッドラインを越えてしまったことが理由のようです。
米国がシリアの反政府勢力支援、ロシアがアサド政権支援、そしてイスラム国がシリア国内に存在しており、現在はまさに無政府状態と言えます。米国とロシアの代理戦争模様、そしてトランプ政権がプーチン政権寄りの政策をとるのではと思われていた矢先、それに冷や水を浴びせてしまったと言えます。一方でロシアはクリミア奪取して以来、西側諸国とは冷ややかな関係にあります。
そしてこれは対北朝鮮への警告の意味合いもありそうです。中国は米中首脳会談の真っ只中のシリア攻撃と、将に不意を突かれた格好です。直前まで何の事前通告もなかったようです。
中国が動かなければ、北朝鮮には単独で動きますよと、トランプ大統領は言明していました。中国としては、核開発、ミサイル開発を続ける北朝鮮に対しては、エネルギー供給の停止などの措置で、一応の歯止めを聞かせていると説明します。しかし北朝鮮と軍事同盟が存在する限り、北朝鮮を見捨てることはできないようです。
そして仮に北朝鮮が崩壊すると、米国とは同盟国の韓国と直接接することとなり、中国の安全保障上の脅威となるのでしょう。もっと強烈に北朝鮮を締め付けるとなると、金正恩委員長が暴走する可能性もあるのではと推測されます。このことにトランプ大統領と政権は危機感を感じているのでは、と思います。結局のところ、トランプ大統領は世界の警察官の立場を明確に継続すると言っているようです。
金融市場は、米国の立場の変化をどの様に今後受け取るのでしょうか。為替の動きは明確で、有事のドル買いが明確なようです。そして逃避資金の受け皿としての円も健在です。
通貨の強弱の序列は、円>ドル>欧州通貨・オセアニア通貨が現在は明確です。昔から有事のドル買い、つまり戦争、テロ事件などに注目が集まるとどうしてもドルに資金が集まる経験則があります。
昔は、有事の際にはスイスフランに資金が集まり、有事のスイスフラン買いの動きが出ていましたが、「今は昔」の状態です。やはり円とドルに資金回避という状況は今後しばらく健在であり、投資家は注意する必要があります。
そしてリスク回避となると、通常、債券に資金を移動する動きが顕著になります。しかし、今回はそのような動きにはなっていません。米10年債の動きを見ましょう。
下記グラフ(出所:MarketWatch)は過去1年の利回りの推移を示しています。現在2.39%に位置していますが、去年の年央には1.50%近辺の水準でした。その後、急速にFRB(米連邦準備理事会)の利上げが予想され、予想通り昨年12月14日と今年3月15日にそれぞれ0.25%ずつ引き上げ、誘導目標金利FF Rateの上限を1.00%としています。その結果10年債は2.50%までに上昇することになりました。今後FRBは年内2回の利上げに踏み切ると観測されています。
しかし、戦争、テロなど地政学リスクが高まると、どうしても安全な債券に株式等の資金を移動させようとする投資家心理が働きます。現在は次回のFRBの利上げ時期を見極めている状況であり、調整局面で利回り低下の動きになっているようです。地政学的リスクがないと、今後6月のFRBのFOMC(米連邦公開市場委員会)に向けて、利上げ観測が強まると、再び利回り上昇の動きとなります。つまり債券から株式市場などリスク商品に投資資金を移す動きが強まることになります。
しかし、トランプ政権が世界の警察官的立場を強めると、益々戦争、つまり地域紛争に介入する姿勢が強まることになります。米国が圧倒的に強い立場であることには現在違いないが、投資家の投資意欲の削ぐことは違いありません。10年米国債で見ると、筆者は、2.25%を下回り、2.00%方向への利回り低下の動きが確認されると、投資家はリスク回避行動をとったなと判断します。FRBの利上げとリスク回避相場との綱引きであると読みます。
そして有事の場合には金相場に資金が集まることになります。有事のドル買い、債券買い(利回り低下)、そして金買いの投資家行動と経験則では言えます。金相場をドルで見ると、1,250ドル近辺に位置します。FRBが利上げセッションの入っており、金は保有していても利子がつかない金融商品です。
しかし金融市場が混乱すると、タンス預金的に金を抱える投資家は増えます。そうなると、利上げ時には見向きもされない金に脚光が浴びせられることになります。シリア、北朝鮮情勢が更にエスカレートすれば、金価格は上昇する動きを強めると思います。1,300ドル越えもある動きをすると予想します。戦争危機が落ち着けば、再び利子のつく金融商品、価格上昇が期待される株式等のリスク商品に投資家の目は映ることになります。
最後に株式市場。どうしてもネガティブに働く株式市場と言えます。有事の際には、軍事産業関連に注目が集まりますが、それはほんの一部の銘柄ではと思います。リスク志向の株高、リスク回避志向の株安は経験則であり、そのように投資家は行動します。
今後、米国経済の上昇と共に、FRBの利上げが予想され、株式市場には負の面もあるものの、経済改善から株高が予想されます。しかしシリア情勢、北朝鮮情勢の動きによっては地政学的リスクが意識され、株式市場が下落する動きも予想されます。
リスク志向とリスク回避志向が今後繰り返され、株式市場が乱高下するような、東京株式市場を含めたグローバルな株式市場であることが予想されます。
地政学的リスクが意識されると、どうしても株式市場などが冷え込みます。そしてそれがどの程度続くのか気になるところです。この意味では、ミドルリスク、ミドルリターンの金融商品に益々注目が集まることになります。
株式市場ではマイナスリターンもあり、投資家は恐怖を味わう可能性も出てきます。5%前後の利回りは、米10年債の2.50%前後の利回りを上回ります。しかも円高に振れた場合の為替リスクを負いません。不動産ファンド、中小企業支援型ローンファンド、太陽光発電ファンド等、優先劣後のファンド構造からミドルリスクからミドルリターンを得られる投資構造は、不安定な金融市場でも、リスク回避的金融商品として、今後脚光を浴びることになるのではと予想します。
«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。
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