「本を聴く」新たな読書スタイル「オーディオブック」が、新たな潮流へ 


クラウドファンディング,ソーシャルレンディング,マネセツ

目で文字を読む読書──。
当たり前だった読書スタイルが一部で覆されつつある。CMなどでもご存じの通り、本を“耳で聴いて”楽しむスタイルが、ここにきて静かなブームを巻き起こしている。

それにしてもいったいなぜ……? そして、どんな楽しみ方が生まれているのか。新たな読書スタイルの流行の現場を探ってみた。

スマホの普及が、“ながら読書”をあと押し

本を耳で聴く、というスタイルは決して新しいものではない。昭和の昔から、カセットテープなどに録音して朗読を聴かせる商品があった。しかしその目的は、おもには視覚障害者のための手助けツールとして発達したものだ。
ところがここにきて、以前とはちがった需要が拡がっている。本を耳で聴いてエンジョイしようという新たな市場だ。

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(株)オトバンクは、耳で聴く本、いわゆるオーディオブックを主力商品としている老舗の会社。
ここが配信しているサービス「audiobook.jp(旧名FeBe)」の会員登録者数が、ここ数年で飛躍的に伸びている。
表(audiobook.jp/旧名FeBeの会員登録者数の推移)を見ると、2015年には8万人ほどだったものが、2017年には30万人を突破。2018年度にはさらに50万人を突破する見込みだという。この伸長ぶりは驚くばかりだ。

スポーツジムや育児中も楽しめる、新たな読書法

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ではなぜ、こんなにもオーディオブックが流行し始めたのか。最大の理由は、ここ数年のスマートフォンの普及といわれている。
オトバンクのアプリaudiobook.jpには、ビジネス書から実用書、文芸書、あるいは専門書にいたるまであらゆるジャンルの書籍が2万点以上ラインアップしており、それらは平均1200円~1500円程度でダウンロードできる。
それに加えて、2018年春からは、月額750円で約1万点の本が聴き放題という定額制のサービスも開始した。1万点といえば全体の半数近くにおよび、これらが聴き放題なので、圧倒的にお得だ。

本を読む作業は目をそこに奪われるので、ほかのことは基本的にできない。しかし耳で聴く場合は、ほかのことをしながらでも同時に“読書”を楽しむことができる。スマホの普及によって、オーディオブックをポケットやバッグなどに入れて持ち運べるようになったことで、一気に活用範囲が広がっている。

たとえば子育て中のママ。
子どもに授乳したり、寝かしつけたりしている最中に本を読むことは難しいが、スマホをポケットに入れてイヤホンを耳にあてれば、子どもの相手をしながら本を聴くことができる。食事を作ったり、掃除をしながらでも、まるで音楽を聴くように本を聴くことができる。

ほかにも、スポーツジムなどでのトレーニング時やランニング中もしかり。
なにか別のことをしながら、イヤホンを通して本を聴くことができる。電車の中や、食事やお茶をしながら、さらには入浴中などでも本が聴ける。耳は目よりも圧倒的に拘束力が少なく、ここにまだ大きな市場が残っていたといっていい。

人気声優やBGM付など、驚きのコンテンツ内容

オーディオブックブームの理由は、上記のようなハード面の充実だけでなく、ソフト面の充実も大きく影響している。

たとえば文芸書などでは、以前であれば一人のナレーターが一冊分を淡々と朗読するのが普通だったが、最近のオーディオブックは大きく様変わりしている。複数の出演者が、それぞれのキャラクターを演じ分けることも当たり前で、さらにBGMや効果音なども充実。作品の世界観を臨場感たっぷりに演出しているのだ。それはまるで、ラジオドラマのような充実ぶりだ。なかには人気の声優が出演している本まであり、内容もさることながら、出演声優のファンが購入して楽しんでいるケースもある。エンターテナーとしてひと皮むけた感がある。

こうした内容充実に合わせて、昨年2018年11月には、面白い実験企画も実施された。
それは、オトバンクとタクシー会社の共同コラボレーション企画された「本のない図書館タクシー」だ。どんな企画かというと、東京23区、武蔵野市、三鷹市限定で、予約したタクシーに乗車すると、そこで本を聴きながら目的地まで移動できるというサービス。タクシー内でただボーっとするのではなく、その時間も充実させようというアイデアだ。実際に体験した人の話によれば、思いがけないサービスに驚いて、好評だったという。

オーディオブックが抱えるデメリット

こうして一気に普及し始めているオーディオブックだが、いくつか見逃せない欠点もある。たとえば致命的なのが、図版や絵を見ることができないことだ。

最近の本は、活字離れが影響しているせいか、わかりやすい図版や表組などで内容を補足、解説しているケースが多い。しかし、オーディオブックでは、それは苦手のジャンルだ。もちろん声で、図版の内容を解説することも可能だが、一目瞭然という感じで理解してもらうのは難しい。
似たような理由で絵本やまんがも、絵の部分を声で解説する必要があるため、オーディオブックではエンジョイしてもらうのが難しい。ただしまんがでは、一部で声優がキャラクターを演じ分けることにより、オーディオブックとして製品化されているものもある。

もう一つの欠点としては、聴く人によっては、本の内容が頭の中に入りにくい点だ。耳で聴く読書は、目で活字を追うよりどうしても集中力に欠けることになる。とくに、何かをしながら本を聴くとなると、どちらかがおろそかになり、せっかく耳で聴いた本の内容が理解できなかったというようなことが起こってくる。

市場に出回る本の数は少なく、まだまだ過渡期

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ちなみに気をつけなければならないのは、車を運転しながらのオーディオブックだ。スピーカーから流すのはいいとしても、イヤホンで聴きながらの運転は危険なのでやめたほうがいい。

さらに、これは過渡期の現象といえるが、まだ圧倒的に市場に出回っている本の数が足りないということもデメリットの一つだ。オーディオブックの普及は最近になって急に増えてきたため、まだまだ参入企業も少なく、そのため点数も少ない。ほしい本がオーディオブックになっていないという可能性もあるので、しっかりラインアップを確かめてから会員登録をしたほうが無難だ。そうしないとお金だけを支払ってほしいものが手に入らない結果になる。ただ、こうした点数の少なさは、徐々に解消の方向に向かうだろう。出版社の一部でも、事業として手がける可能性があるといわれる。

── オーディオブックは、まだ始まったばかりの新しい潮流。これからさらに大きな市場として育っていく可能性がある。しっかり見守っていきたいものだ。

≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、昨春退職。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。


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