プロ野球2019年シーズンの開幕も目前に迫り、連日、オープン戦やキャンプの様子が報じられている。
ファンにとってはひいきのチームや選手の調子が気になると同時に、シーズンが始まるまでのワクワク感がどんどん高まる時期でもある。
さて、近年はその春季キャンプを、沖縄で行うチームが圧倒的に多い。かつては宮崎や高知などにも多くのチームが訪れたが、いつの間にか沖縄に集中するようになった。温暖な気候かつ施設が充実する沖縄は、いまやプロ野球キャンプのメッカとも言える地域なのだ。
プロ野球球団がキャンプを行うとなれば、多くの人やモノが移動するし、キャンプを見学しようと多くの観光客も訪れる。つまり、大きな経済波及効果があるわけだ。そこで今回は、なぜ沖縄がプロ野球のキャンプ地に選ばれるのか、それによって沖縄がどれほどの経済的恩恵を受けるのかについて考えてみよう。
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沖縄でキャンプを行うプロ野球球団
プロ野球12球団中、2019年春季キャンプを沖縄県内で行うのは下記の9球団だ。
●広島東洋カープ 沖縄県沖縄市(1軍)
●阪神タイガース 沖縄県宜野座村(1軍)
●横浜DeNAベイスターズ 沖縄県宜野湾市(1軍)、沖縄県嘉手納町(2軍)
●読売ジャイアンツ 沖縄県那覇市(1軍)
●中日ドラゴンズ 沖縄県北谷町(1軍)、沖縄県読谷村(2軍)
●東京ヤクルトスワローズ 沖縄県浦添市(1軍)
●東北楽天ゴールデンイーグルス 沖縄県久米島町(1・2軍)、沖縄県金武町(1軍)
●北海道日本ハムファイターズ 沖縄県名護市(1軍)、沖縄県国頭村(1・2軍)
●千葉ロッテマリーンズ 沖縄県石垣市(1・2軍)
チームによっては、1軍と2軍で日程や練習場所が異なり、沖縄県外のキャンプ地を同時並行で利用するチームもある。
ちなみに上記以外のチームでは、福岡ソフトバンクホークスとオリックス・バッファローズが宮崎県宮崎市、西武ライオンズが宮崎県宮崎市と高知県高知市などとなっている。この3チームだけが、この春は沖縄以外の地を選んだわけだ。
サッカーJリーグのチームも増えてきている
沖縄でキャンプを行うスポーツチームはプロ野球だけにとどまらない。
1月から2月にかけて、サッカーJリーグでは、浦和レッズ、V・ファーレン長崎、ベガルタ仙台、東京ベルディ、大宮アルディージャ、ジェフユナイテッド市原・千葉、水戸ホーリーホック、コンサドーレ札幌、ガンバ大阪、川崎フロンターレ、名古屋グランパス、FC東京、ヴィッセル神戸、サガン鳥栖、FC町田ゼルビア、横浜F・マリノス、京都サンガFC、ファジアーノ岡山、ヴァンラーレ八戸の各チームが沖縄県内でキャンプを行った。
他にも韓国K2リーグの光州FC、なでしこリーグのINAC神戸、ちふれASエルフェン埼玉、アマチュアの岐阜経済大学、帝京大学なども沖縄キャンプを実施している。
1月から2月にかけて、沖縄は日本のどこよりも早く、野球やサッカーの楽しみにあふれるわけだ。
沖縄がキャンプ地に選ばれるワケ
では、なぜこれほどまでに沖縄でプロ野球チームがキャンプを行うようになったのだろうか。
1950年代から、巨人が宮崎でキャンプを行ったことで、プロ野球のキャンプといえば宮崎というイメージが広がっていた。それが、バブルの頃に多くの球団がハワイやグアム、アリゾナなどでキャンプを行うようになったのち、勢力図が少しずつ変化してきた。
実は2月の宮崎は案外寒い。天気が悪ければ気温10度を下まわることもあり、これではなかなか野球ができる環境にならない。
逆に、ハワイやグアムなどは暑すぎることが問題に。キャンプの主な目的は、一年を通して戦える体力づくり。連日30度を超えるような環境では、暑すぎては逆に体力を消耗し、質の高い練習ができないのだ。また、寒い日本に帰ってきたときの寒暖の差で、体調を崩す選手も多かった。
その点、沖縄はちょうどよかった。
宮崎よりも暖かく、ハワイやグアムほど暑すぎない。また、各球団の本拠地とも近く、時差もない。ただ、沖縄にも問題はあった。2月は意外にも雨が多いこと、そして施設が十分でなかったことだ。
沖縄がまだ日本に復帰する前にキャンプを行ったチームがあったが、雨にたたられ、しかも屋内練習場などが整備されていなかったため満足に練習できなかった。これがトラウマとなり、その後、沖縄でキャンプをするプロ球団はなかなか出てこなかったのだ。
しかし、1979年に日本ハムが名護でキャンプを行ったことを機に、沖縄でのキャンプが少しずつ見直されるようになり、沖縄県内の各自治体はプロ野球キャンプを誘致しようと、施設を充実させていった。今では沖縄の小さな自治体のいたるところで、立派な屋内練習場やブルペンなど、最先端のスポーツ施設がいくつも見られるようになっている。
プロ野球キャンプによる、沖縄の経済波及効果
さて、プロ野球のキャンプが沖縄に集中するようになり、どれほどの経済波及効果を生み出しているのだろうか。
りゅうぎん総合研究所の調査によれば、2018年のプロ野球のキャンプに訪れた延べ観客数は約37万7000人で、過去最高となった。天候に恵まれたことや注目選手が多かったことなどから、観客数は前年より約2万8000人増加したとされている。しかも、このうち県外からの観客は約8万4000人で、前年より1万3100人も増加したと推測されている。
これにより、沖縄県内のプロ野球春季キャンプの経済効果は、122億8800万円となり、2017年の109億5400万円を上まわり過去最高となった。
経済効果を産業別にみると、
□宿泊業が22億5600万円
□商業が15億5000万円
□飲食サービス(飲食店など)が15億200万円などだ。
通常、2月は経済が停滞する時期であり、沖縄観光もオフシーズンであるはずだ。にもかかわらず、ハイシーズンにも迫ろうというほどの観光客が押し寄せ、賑わっている。つまり金額以上に大きな影響があると言えるだろう。
また、プロ野球のキャンプ見学は若い世代や家族連ればかりでなく、中高年層の男性も多いはずだ。となれば、落とす額もさらに多くなっていくと考えられる。寒い本州などから来た観光客は、暖かい沖縄で「ついでにゴルフも」……も当然の流れ。想像以上に沖縄に恩恵をもたらしていると言っていいだろう。
沖縄が進めるスポーツツーリズム戦略
先に紹介したように、沖縄県内ではプロサッカー、そしてプロバスケットなど、他のスポーツのキャンプの誘致にも力を入れ始めている。そのためにグラウンドの芝を入れ替えたり、体育館を建て替えたりと、施設はますます充実している。スポーツ産業が、沖縄県の経済拡大にますます重要な役割を担うようになっているのだ。
「スポーツツーリズム」とは、スポーツの資源で旅行や観光の振興を図る取り組みのこと。スポーツを見に行くための旅行、それに伴う周辺観光、スポーツを支える人々との交流など、スポーツにかかわるさまざまな目的のための旅行がこれに含まれる。沖縄では、県の「スポーツツーリズム推進戦略」のもと、スポーツを目的に旅行へ出かける人を誘致しようと、数多くの取り組みを進めている。
いまや沖縄を訪れる観光客は年間900万人を超え、年間目標は1000万人となっている。年間観光客数ではハワイと同等となっている。
南国ならでは生来の観光資源に加え、スポーツツーリズムに県を挙げて取り組む沖縄。観光立県としての武器をいくつも持ち、ますます多くの人に愛される魅力的な島へと成長を続けている。
≪記事作成ライター:三浦靖史≫
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車など。
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