「えっ?AM放送なくなるの?」。凋落の一途たどるラジオ業界の深刻な窮状


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「ラジオのAM放送がなくなってしまう!? 」……2019年3月、そんなニュースが駆けめぐった。

radiko.jp(ラジコ)に代表されるラジオが聴ける無料のスマホアプリが人気を集めているものの、ラジオを聴く人が少なくなっていることは確か。とはいえ、このニュースを聞いてショックを感じた人も多いはずだ。

かつてはニッポン放送の『オールナイトニッポン』、文化放送の『セイ!ヤング』、TBSの『パックインミュージック』と、どのAMラジオ局にも深夜放送の看板番組があり、若者に大人気だった。しかし、近年は凋落の一途をたどっているようだ。
AM放送は、もうその役割を終えてしまったのだろうか……。現在、AM放送が抱えている問題を洗い出し、AM放送停波の動きを探るとともに、AM放送の未来を考えてみよう。

AM放送、2023年に試験的に停波へ

日本民間放送連盟(民放連)は、2019年3月、2028年までにAMラジオ局がAM放送をやめてFM放送に転換できるよう、総務省に制度改正を求めた。早ければ2023年にも、一部地域でAMの試験停波をする実証実験を行うという。

この制度改正が実現すれば、放送エリアの広い北海道などの一部地域を除き、全国的に民放AM局がなくなる可能性がある。また、NHKはAMとFMの両方を放送する義務があるため、今後もAM放送が続けるという。

AM放送とFM放送はどう違うの?

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ここで、ラジオのAM放送とFM放送の違いを整理しておこう。

〈AMの電波〉
AMの電波は地表波と呼ばれ、ビルや山などの障害物をまわり込んで進み、広い範囲で聞くことができる特徴をもつ。電波状況がよければ、海外にも届くくらいに電波を送ることができる。しかし、他の電波や電子機器などの影響を受けやすく、雑音が入りやすい欠点もあわせもつ。

〈FMの電波〉
これに対してFMの電波は直接波と呼ばれ、電波の送信元から受信アンテナまで直接電波が届かないと受信できない。また、FMの電波は障害物をまわり込みにくく、数十キロ〜100キロ程度までしか届かない。しかし、他の電波などの影響を受けにくいため、高い音質の放送を楽しめる。

これらの特徴により、〈AM放送〉はニュースや交通情報、トーク番組など、あまり音質にこだわらないものや広範囲に伝えたい内容のものが多い。そして、ビル内で聞きにくいため、都市部での難聴が問題となっている。
一方、〈FM放送〉は、高音質で聴かせる音楽番組や地域密着のニュースなどを扱うことが多く、ビル内でも比較的よく聞くことができる。

また、その電波の性質の違いから、AMの送信所は海辺や河川敷など、ある程度の広さがある平地が求められる。これに対してFMは、山頂や鉄塔などの高いところにアンテナが設けられることが多い。

ラジオ広告の減少が、大きな課題

AM放送は、どうして下火になってしまったのだろうか。ひとつはラジオの広告収入減少の問題がある。
電通の調査によると、2018年の総広告費は約6兆5300億円で、このうち約2兆円がテレビ広告で占められている。これに続くのがネット広告で、約1兆7500億円。ネット広告は5年連続で2桁成長を遂げており、広告費全体をけん引している。

一方、ラジオ広告は4大マスコミ(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の中で最下位の約1270億円で、長い間ゆるやかに減少傾向が続いている。特にAM放送は深刻で、民放連によるとAM局の営業収入は、ピークだった1991年度の2040億円から、2017年度の797億円にまで減少している。平成の間に、業界規模が3分の1程度にまで縮小したことになる。

さらに、設備投資に費用がかさむことも問題だ。
すでに説明したように、AMの送信所はある程度の広さのある平地に設置する必要がある。このような土地を都市部で維持管理することは大変だし、設備更新にも費用がかさむ。AMよりもFMのほうが簡易な設備で放送することができ、コストも少なくて済む。

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ワイドFMに移行するAM局が増加傾向

こうした状況を受け、2014年から、AM番組をFMで同時に流す「FM補完放送(ワイドFM)」が実施されている。

ワイドFMとは、AMの放送エリアで、電波障害に強いFMの周波数を使ってAM番組を放送することだ。AM放送が聴き取りにくい地域でも、FM放送でAMラジオの番組を聴くことができる。また、津波や地震などの災害時も、FM放送は影響を受けにくく、緊急時も役に立つとされている。

現在、民放連に加盟するAM局47社のうち43社が、すでにこのワイドFMを実施している。
今回、民放連が総務省に要望したのは、各ラジオ局がFMへの一本化をするか、AMとFMの併用をするか選択できるようにする制度改正だ。有識者会議で審議し、早ければ今年の夏に出される中間報告で結論が出るという。実現すれば、多くのラジオ局がFMへの一本化を選択すると予想されている。

AM放送停波は、時代のすう勢だが……

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ラジオの営業収入が減少していること、ネットでさまざまな音源が簡単に入手できるようになっていることなどから考えれば、音質や電波障害などに課題があるAM放送が縮小されていくのは時代のすう勢なのかもしれない。

それでも、かつて多くの若者が自分の居場所を深夜放送に求めたように、ラジオ番組にはどこか手作りで、素朴な魅力がある。将来、たとえFM放送ばかりになったとしても、効率一辺倒ではない、人の温もりが感じられるような番組がなくならないことを願いたい。

≪記事作成ライター:三浦靖史≫ 
フリーライター・編集者。プロゴルフツアー、高校野球などのスポーツをはじめ、医療・健康、歴史、観光、時事問題など、幅広いジャンルで取材・執筆活動を展開。好物はジャズ、ウクレレ、落語、自転車。


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