5月に閉幕した英国サッカー「プレミアリーグ」。
岡崎慎司選手が所属する「レスター・シティ」が、クラブ創設から133年にして初のトップディビジョン優勝を成し遂げました。
英国のみならず、世界中のサッカーファンの感動を呼び、「おとぎ話」にも例えられたレスターの奇跡。どうして「奇跡」と呼ばれるのでしょうか?
サッカービジネスの観点から振り返ってみました。
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そもそも、英国プレミアリーグの仕組みとは?
英国プレミアリーグとは、英国サッカー(フットボール)の最高峰にあたるリーグ。
イングランド、ウェールズに位置する20チームが所属しています。
プレミアリーグの下には、2部リーグ(チャンピオンシップ)があります。さらにその下には3部(リーグ1)、4部(リーグ2)……(以下略)。
どのリーグも「昇格」「降格」ありの完全競争。上位クラブは「優勝」や「昇格」を、下位のクラブは「残留」をめざしてリーグ戦を戦います。
「強さはお金で決まる」。これがサッカー界のセオリー
そこでどのクラブも力を入れるのが「選手の獲得」です。
サッカーにおいては、「人件費」と「チーム成績」の間に強い相関関係があることが実証されており、優勝を狙うビッグクラブは巨額の資本を投じて有名選手を獲得、チーム強化を図ります。
さらに事態をエスカレートさせているのは、プレミアリーグと下位リーグの間に、大きな収入の落差があること。「どうしても残留したいプレミア下位クラブ」や「どうしても昇格したいチャンピオンシップ上位クラブ」の人件費が増大する傾向が強いのです。
2012 − 2013シーズンの英国プレミアリーグにおける「売上高人件費率」は、約70パーセント。2部にあたるチャンピオンシップでは、なんと106パーセント。半数以上のクラブが、売上高以上に人件費を使っています。
規格外の人件費、しかし結果が出るまでにはタイムラグが
しかし「昇格」「降格」制度があるリーグでは、どれほど強化に力を入れても、毎年必ず決まった数のクラブが下位リーグに「降格」してしまいます。
降格すると、クラブの売上高は激減します。人気が劣る下位リーグでは、放映権料やスポンサー料、チケット売り上げなどが減少するからです。
「高給の選手を放出して財務的な安定をはかり、数年後に昇格をめざす」?
それとも「財務破たんを危惧しながら、選手を保持して翌年の昇格をめざす」?
判断を間違えれば「成績低迷・昇格失敗」「さらに下位のリーグへの降格」などのリスクを抱えることになります。
勝てるはずがない(?)条件の下で起きた「奇跡」
レスターの過去5シーズンの成績は「チャンピオンシップ10位」→「同9位」→「同6位」→「同1位」→「プレミアリーグ14位」。
タイの富豪スリバッダナプラバ氏がオーナーになった頃から成績が上向き、十数年ぶりにプレミア復帰を果たしましたが、成績は振るわず。
まさか翌年にリーグ優勝するとは、誰も予想していなかった(!?)はずです。
そんなレスターの選手年俸の総額は、日本円で約75億円と推計されています。
日本のJリーグでは、選手の人件費はトップクラスのチームでも10億円台と言われていますから、日本人にしてみればじゅうぶんな金額と思われがちですが、しかしレスターのこの金額は、プレミア20チーム中「17番目」に過ぎません。「強さはお金で決まる」サッカーの常識で考えれば、かなり不利と言えます。
一方、「チェルシー」「マンチェスター・ユナイテッド」「アーセナル」「マンチェスター・シティ」などの年俸総額は、約200~300億円。レスターの3~4倍にのぼります。
さらに、これらのビッグクラブは、ヨーロッパ各国の上位チームが対戦する「チャンピオンズ・リーグ」などに出場することで、数億~数十億円といわれる出場手当や勝利手当、放映権料、グッズ売り上げの分配金などを得ています。レスターには、こうした収入もありません(今回の優勝で来シーズンのチャンピオンズ・リーグ出場権を獲得)。
豊富な資金力を武器に選手を買いあさり、優勝を争う……そんなクラブはほんのひと握り。
中小クラブのファンは、クラブの残留のために必死で応援し、時折起こる番狂わせに快哉を叫びます。
そんな中、データ分析やスカウティング網の強化によって選手を発掘し、限られた資金で最大のパフォーマンスを発揮したレスターに、多くのサッカーファンが共感したのです。
参考:西崎信男「スポーツマネジメント入門 プロ野球とサッカーの経営学」(税務経理協会)
「サッカーマガジンZONE」2015年4月号、2016年4月号
≪記事作成ライター:奥田ユキコ≫
生まれも育ちも東京のライター。教育や語学、キャリア、進学、サイエンス、生活の雑学、ライフスタイルなどをテーマに、雑誌や広報誌、ウェブなどの記事を手がけています。「マネセツ」では、主にスポーツと「お金」にクローズアップした記事を書いていきたいと思います。
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