「正社員も派遣社員も同じ賃金」。日本で“同一労働同一賃金”なんてホントにできるの!?


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安倍首相が、2016年1月22日に国会で行われた「施政方針演説」で、「本年取りまとめる『ニッポン1億総活躍プラン』では、同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えであります」と宣言。

これにどよめいた政界や経済界。
導入されれば、企業や労働者に大きなインパクトをもたらすからです。

では、日本でも本当に「同一労働同一賃金」が導入できるのでしょうか?
 

「同一労働同一賃金」はヨーロッパ発

この「同一労働同一賃金」は、民進党はじめ野党がずっと唱えてきたことなので、野党側からはこの7月に行われる参議院選挙の“争点つぶし”との批判も聞こえています。
そうした政治的な話は脇に置きますが、安倍政権は3月23日に「同一労働同一賃金」の実現に向けた検討会の初会合を開き、選挙までになんらかの具体的な方向性を示すものと考えられます。

では、「同一労働同一賃金」とは何か。

簡単にいえば、「同じ職場において、同じ仕事をする人の賃金は同じでなければならない」というルールのことです。

「何当たり前のこと言ってるの?」と思われるかもしれませんね。
でも、日本において「同一労働同一賃金」を実現させるのは、簡単ではないのです。
その理由を説明していきます。

そもそも「同一労働同一賃金」というのはどこから来たのかというと、1919年にフランスで調印された「ヴェルサイユ条約」にさかのぼります。
そこに「同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受くべき原則」というのが提起されました。
この原則をもとに、ILO(国際労働機関:世界の労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする国連の専門機関)が「労働者の待遇に関して、いかなる差別もしてはならない」という主旨の条約を策定し、ILO加盟国にその遵守を求めたのです。
日本もILOには設立時から加盟しています。が、批准している条約は4分の1に過ぎません。

つまり、「同一労働同一賃金」は、ヨーロッパ社会を中心とする考え方なんですね。
その背景には、キリスト教の影響もあるといわれているようです。
 

「職務給制度」と「職能給制度」の違い

ヨーロッパでは、仕事内容で賃金が決まる「職務給制度」が歴史的に確立されています。
一方の日本はというと、歴史的に「職能給制度」が採用されてきています。
「職能給制度」とは、職務内容だけでなく、勤続年数や経験によって賃金を決める(差をつける)というもの。
いわば「年功序列」が給料にも反映されているわけですね。
つまり、ヨーロッパにはそもそも「同一労働同一賃金」を実現させやすい環境があったのですが、日本にはそれがないのです。

野党も安倍首相も「同一労働同一賃金を実現させたい」と言っているのは、日本ではいわゆる「非正規雇用労働者」の問題が大きくなっているからです。

“非正規”とはつまり、アルバイト・パート、派遣社員、契約社員など“正規(正社員)ではない”労働者たちのこと。何が問題なのかというと、非正規と正規では待遇に差があり過ぎるところです。例えば平均年収は、民間給与実態調査によると約300万円もの開きがあります。

ヨーロッパはどうなっているのかというと、「同一労働同一賃金」ですから、フルタイムワーカーもパートタイマーも時給換算では同じ。ある職場である職種に就き、1日8時間働く人の年収が1000万円なら、同じ職場で4時間働く同じ職種の人の年収は500万円となっています。
 

正社員と派遣に求めらる職務の違い

日本の場合、「職能給制度」のもとで例えば経理の仕事をしている正社員は、同じ経理の仕事をしている派遣社員には求められていないさまざまな仕事をしています。委員会活動への参加とか、レクリエーションの企画とか、接待への同席とか、なんとかかんとか。
なぜなら正社員には、社歴や経験に応じて、会社の組織を支える職務も役割として付加されていくからです。
ですから、単純に「経理業務」という職務で括ることができません。
何をもって“同一労働”と定義できるのかがきわめてあいまいであるといえるのです。

「日本でも“同一労働同一賃金”を実現させよ!」という主張が正規と非正規の格差の是正を目的としていても、そもそも同じ経理の正社員と派遣では“同一の職務とはいえない”のですから、待遇の差はあってしかるべき、という考え方も成立するでしょう。

本当に実現させるならば、社内のあらゆる業務の定義を明確にしなければなりません。
しかし、明確にしたところで同じ業務に正社員と派遣や契約社員を就けさせなければいいだけの話ですから、実質的に意味のある制度になるとも思えません。

安倍首相がどのような落としどころを見出すのか、見ものですね。

余談ですが、欧米では、例えば会社のお偉いさんが「ちょっとオフィスが汚れているから」と掃除をすると、訴訟されてしまうリスクがあるんだとか。
「清掃人の雇用機会を奪うとともに、賃金の高い人間が賃金の低い職種の仕事をするのは『同一労働同一賃金』の原則に反する」からだそうです。
いかにも欧米社会って感じですね。
 

≪記事作成ライター:髙橋光二≫ 
フリーライター・エディター。1958年、東京都生まれ。1981年、多摩美術大学デザイン科卒業後、㈱日本リクルートセンター(現・㈱リクルートキャリア)入社。2000年、独立して現職。主に経営者インタビュー、コンテンツマーケティング、キャリアデザインなどの分野で編集・執筆。


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