東京、神奈川はいよいよ1000円超え。最低賃金引き上げの光と影


毎年審議されている労働者の最低賃金改定への提言。今年も結論が出た。東京や神奈川などの大都市では、時給1000円を超えることになり、いよいよ大台突入と反響を呼んでいる。

ちょうど消費税アップのタイミングとも重なって注目を集めるが、一方で地方や中小零細企業への経営圧迫が心配され、喜んでばかりもいられない現状があるようだ。

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全国平均で初の900円台に。政府の目標達成はまだ先

最低賃金とは、企業や公務員などの労働者に法律で支払いを義務付けた最低限の時給を指している。経営者側と労働者側の代表に学者を加えた労公使が年に1回審議を行い、引き上げの目安を決める。この金額をもとに、各都道府県の自治体がそれぞれ議論し、10月をめどに改定する仕組みだ。

政府が19年度の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で、「より早期に全国平均で1000円を目指す」と明記したのを受け、引き上げ額に注目が集まっていた。

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今回決まった引き上げ額は、全国平均で27円引き上げて901円となった。東京は1013円、神奈川は1011円となり、初めて1000円を超えた。また、都道府県全体での引き上げ額は過去最大となっている(図「令和元年度地域別最低賃金改定状況」参照)。

図で色分けしたように、各都道府県の最低賃金は地域の経済力に応じて、それぞれA~Dの4つのランクに分類して提示している。
●28円アップのAランク/ブルーで示した埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪
●27円アップのBランク/グリーンで示した茨城、栃木、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、広島
●北海道や群馬などのCランクと青森や鹿児島などのDランクは26円アップとなった。最低賃金が従前から高い東京などは1000円超えとなったが、引き上げ率からみると、4つのグループ中ではDランクが3.4%ともっとも高くなっている。

非正規雇用労働者の生活改善に貢献

では、最低賃金のアップはどんな影響をもたらすのだろうか。
最低賃金の改定によってもっとも恩恵を受けるのは非正規雇用の労働者といわれている。たとえば、有期雇用労働者、パートタイム、派遣労働者、そして外国人など。
もちろん時給額は各企業によって異なるのだが、仮に国の定めた最低賃金と同水準だとすれば、今回の引き上げは約3%のベースアップということになり、結構な額だ。しかもこの4年間3%のアップ率は毎年維持されている。

背景には、政府が掲げる働き方改革の目玉の一つとして、「同一労働同一賃金」がある。同じ内容の仕事に従事するなら、本来非正規社員でも正社員でも同じ賃金が支払われるべきという欧米並みの考え方だが、日本の年功序列・終身雇用の長年の労働慣習とはなかなか相容れず、非正規と正社員の賃金格差はなかなか縮まらない。
総務省の「労働力調査」2018年平均(速報)によると、正規雇用労働者が3476万人に対し、非正規雇用労働者は2120万人おり、約38%に及んでいる。ちなみに非正規雇用者のうち68%は女性だ。これだけ多くの非正規雇用労働者がいるのだから、賃金アップへの圧力は相当なもの。
非正規雇用者の労働環境改善を目指す、「パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法」は2020年4月に施行されることになっており、賃金にとどまらず、今後ますます増える見込みの非正規雇用者の待遇改善が具体的に進むことを目指している。

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中小零細企業の経営を圧迫し、雇用不安への影響も

政府が先導して進める最低賃金の引き上げは、労働者にとっていいことずくめのように見えるが、実は大きなリスクも伴っている。では、その危険性を洗い出してみよう。

企業の生産性に見合っているか

最低賃金引き上げでの最大のリスクは、企業の生産性が賃金上昇に見合っているかだ。
前述のように4年連続で最低賃金は3%ずつ引き上げられているのだが、一般企業を見回してみると、今どき毎年3%のベースアップが果たされている企業などほとんど見当たらない。
賃金水準の高い大手企業の労働者には最低賃金のアップ率はあまり影響がないかもしれないが、非正規雇用者を使ってぎりぎりの営業を繰り返している中小企業や商店などでは、国によって強制的に賃金のアップを定められることは、かなりきつい。
なんとしても前年より3%以上の営業利益を必ず確保しなければならない。

非正規雇用者が職を失う危険がある

中小零細企業やコンビニ、商店など、非正規の労働者を雇って最低賃金レベルの給与で経営を維持している事業者の中には、これまでの経営体制を見直さざるを得なくなる可能性がある。
例えば従業員の数を減らすとか、あるいは最悪の場合倒産や店をたたまなければならないケースもありうる。
そうなれば失業が生まれる。労働者の生活を守るための法律が、結果として労働者の職を奪いかねないというリスクを抱えている。
特に外国人などに依存しているコンビニでの店じまいは深刻だ。

正社員の給与が引き下げられかねない

政府が目標として掲げる「同一労働同一賃金」は、これまで不当な扱いを受けてきた非正規雇用者の地位を引き上げて、労働環境を正社員なみにするという思惑なのだが、企業がこれを逆手に取る可能性がある。
つまり、非正規雇用者の賃金を引き上げるが、賃金レベルを合わせるために正社員の賃金を引き下げるという手段に出る可能性だ。
表向き、基本給を下げるのは難しいにしても、各種手当などを見直し、経営側の賃金負担を少しでも軽減するような動きが出ないとも限らない。
あってはならないことだが、使用者としても経営が維持できなければ、そういう奥の手も使わざるを得なくなる。
そうなると、最低賃金の引き上げが、結果的に正社員の給与引き下げの理由付けになりかねない。

いつまでたっても埋まらない地域間格差

政府にとっての大きな命題のひとつに、東京や大阪などへの大都市集中を抑え、地方を活性化させることがある。
しかし、お金も人の流れも東京へ一極集中している現状は全く改善されていない。最低賃金の額もそれにひと役買っている。
今回、東京の最低賃金は1013円へ引き上げられたが、地方はそれにはまったく追いつかない。
最低の鹿児島は787円。九州は福岡を除いて軒並み780円台だ。東北も800円以下のところが多い。東京と鹿児島の差は226円。この差は誰が見ても決定的に大きい。
もちろん物価も地方はそれなりに安いので一概には比較できないが、例えば住んでいる地域に縁もゆかりもない外国人労働者が日本に来て働くとすれば、少しでも最低賃金の高い大都市周辺で働きたいと思うのは当然だ。
外国人だけでなく、若い世代の東京集中は賃金の格差からも生まれているのが現実。東京が栄えて地方がさびれる構図が、ここでも見えている。

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以上のように、最低賃金の引き上げは、労働者にとって朗報であることに間違いないが、経済は生き物だ。一面だけを見ていると、そのしわ寄せが他方に及ぶこともままある。政府や当該部局のかじ取りによっては新たなリスクも抱えていることを、しっかり注視していかなければならい。

≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロデュースを手掛けている。


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