10年以上前のお話です。
田舎に戻って県庁に勤めている学生時代の友人から、小さな編集プロダクションを経営している筆者に電話がかかってきました。
「お宅の会社って調査できる?」「いや、うちは広告会社ですよ」と返事をする筆者に対して、「話だけでも聞いてよ、助けてほしい」と言われ、結局は引き受けた仕事の話です。
仕事の内容は、「当時、県が誘致した、“世界のトップが集まるある会議”がどのくらい報道されて、それをすべて広告費用に換算したとすれば、いくらになるかを算出する仕事」でした。
支出費用が正当なことを証明する費用が1000万円!
「そんなものを算出してどうするの?」という読者のみなさんの疑問はごもっともです。筆者も最初はそう思いました。
それに対しては、
「世界的な会議を誘致するためには、莫大な費用を支出している、その費用が正当なものだったことを議会や県民に証明するために、この調査は不可欠なのだ」という説明でした。
続けて、「なんとか1000万円を切るぐらいの金額でやってくれるとうれしい。広告代理店からの見積もりは2倍以上で……」と切り出す彼の話を聞いて、私は驚きました。
調査を請け負える会社は、ほぼ一社しか存在しない
事務所に帰って、早速、「どうすれば調査できるのか」を方々にあたったところ、ほどなくして、「すべてのテレビやラジオ番組を録画、録音していて、後に遡って調査をする会社」は一社しか存在しないことがわかりました(当時のお話です)。
そして、さらにその会社から、全国の雑誌、新聞をくまなく調査してスクラップ、広告費用換算までを行う、これもほぼ唯一の会社を紹介していただけました。
何のことはありません。お役所がどこの広告代理店に発注しようと、調査を実施し、レポートに仕上げることができる会社は、最終的に同じところだったのです。
そうなると、次に気になるのは、テレビ・ラジオを調査してくれる会社と、新聞・雑誌を調査してくれる会社からの見積りです。
残念ながらここでは具体的な数字は明かせませんが、筆者の小さな会社が「こんなに利益を出してもいいの?」と、当時思ったぐらい、それはリーズナブルなお見積りでした。
ということは……
そうです。大手代理店さんは、いったいどのぐらい利益を出すおつもりだったのでしょうか。
「そりゃあこんな美味しい案件がたくさんあれば、立派なビルも建つわけだ」
筆者はそうつぶやきながら、お役所からのもうひとつの指示を、新聞・雑誌をスクラップしてくれる会社に伝えました。
「報告書は厚さ7cm以上にしてもらえますか?」
そうです。お役所は厚さも大事なのです。もし7cmに達しなければ、普通紙を厚手の紙に替えても……ということだってありえたでしょう。
広告効果は30億円以上!
というわけで、最終的に仕上がった報告書に記された「世界的な会議に関する全報道」がすべて広告だったと過程すると、その費用は30億円以上にのぼることに!
つまり、報告書では「30億円以上の広告効果があった」という内容だったのです。
当初の目論見では「10億円を超えれば……」という依頼だったので、県のみなさんは、揃って満面の笑み。それは、それは、大喜びでした。
かくして、うん百万円の請求書を書かせていただいた筆者でしたが、納税者として内心では何か複雑なものがありました。
もちろん、こんなにおいしい仕事、もう二度とないでしょう。
それにしても、世の中は摩訶不思議。
コツコツと働いている者の想像に及ばない、いろいろな仕事があるものなのですね。
≪記事作成ライター:前田英彦≫
大手情報サービス企業に11年間在籍後、独立。数々の創業経営者との仕事に触発されて、企業の広報活動を支援する会社を設立、現在18期目を迎えている。「レジを打ったことのない人間に小売りの何がわかる!」と言われたことがきっかけで、なぜかたい焼き屋も展開中。好きなもの。ダルメシアン、テニス、ゆで卵
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