歴史や価値とともに変化する「お値段」⑩ ─ 日本語ワープロ


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ものやサービスの値段は時代によって変わるものです。

「高い」「安い」の基準になっている貨幣の価値も時代によって大きく変わります。今回も、さまざまな分野のものやサービスの「お値段」を比較していきましょう。今回は、日本語ワープロがテーマです。
西洋でタイプライターの原理が発明されたのは18世紀のはじめ。本格的に商品化されたのは19世紀末です。一方、日本で和文タイプライターが発明されたのは、意外と早く大正4(1915)年で、日本語ワープロが発売されたのは昭和53(1978)年のこと。
今回は、「日本語を変えた」ともされるワープロの歴史と価格の変遷を簡単にふりかえっていきましょう。

歴史や価値とともに変化する「お値段」① ── カラーフィルム
歴史や価値とともに変化する「お値段」② ── カメラ
歴史や価値とともに変化する「お値段」③ ── 初鰹
歴史や価値とともに変化する「お値段」④ ── 古書
歴史や価値とともに変化する「お値段」⑤ ── 夏目漱石の「経済的価値」
歴史や価値とともに変化する「お値段」⑥ ── ビールのお値段
歴史や価値とともに変化する「お値段」⑦ ── 劇場入場料
歴史や価値とともに変化する「お値段」⑧ ── 郵便料金
歴史や価値とともに変化する「お値段」⑨ ── 宝くじ

日本語を書く? それとも入力する?

現在、仕事でもプライベートでも、多くの人は日本語を手書きで「書く」ことが少なくなっているのではないでしょうか。パソコンやスマホに「入力」することがほとんど、という人も多いかもしれませんね。

明治時代以降、それまで筆と墨で和紙に書かれていた日本語は、次第に鉛筆やペンで洋紙に書かれるようになっていきました。欧文のタイプライターは明治になって輸入されましたが、もちろんこれは欧文を書くための道具で、ローマ字の分かち書き(単語間にスペースを入れる方法)によらなければ日本語を書くことはできないの。
欧文タイプライターであれば、アルファベット26文字と数字、そしていくつかの記号類の入力キーがあればカバーできますが、日本語ではそういきません。一般的な文書を書く場合でも、日本語では数千字程度の漢字は必要であると言われます。それに加えて2種類のかな、記号類が必要ですから、日本語の機械入力の開発は、非常にハードルが高かったのです。

昭和21年の和文タイプライターは、おおよそ50万円

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大正時代に発明されたのは、和文タイプライターというものでした(発明当時のものは2400字が印字可能だった)。これはキーボードによる入力ではなく、升目上に並んだ文字盤の上のレバーを動かして選択した文字を印字するというもの。たくさんの漢字は、そのつど文字盤をとりかえて印字します。

戦前の記録は残っていないようですが、昭和21(1946)年の和文タイプライターのお値段は2万8000円。かけそばが一杯20円程度という時代ですから、おおよそ50万円ということになるでしょうか。

さらに、昭和55(1980)年では32万3000円という記録も残っています。実はこれ、高価なうえに使いにくい機械だったのですが、個人商店や小さな事務所などでも使われるようになっていきました。宛名の入力や教育現場でのプリント制作などの用途にそれなりに普及したこともありますが、方和文タイプの存在を覚えていらっしゃる方は、かなりの年配の方ですね(笑)。

初のワープロは、なんと630万円!

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このあと昭和初期には、主にカタカナを印字するカナタイプライターも発明され、伝票の入力などに企業ではある程度普及しました。
続いて、1970年代からコンピュータで日本語を処理することができるようになりました。かな漢字変換の技術が開発され、漢字かな交じりの日本語をキーボードで入力することのできる機械がついに開発されました。「日本語ワードプロセッサー」の登場です。

1978年に東芝から発売されたJW-10のお値段は、なんと630万円。

ただし当時のオフィス用のミニ・コンピュータのお値段が1000万円台だったことを考えると、これは劇的なコストダウンでした。
大きさは表示モニターとキーボード、本体のセットは小さめの事務机ほど。こうした大きさから、個人のユーザはほとんどいなかったようですが、JW-10はこの年に160台が売れたといいます。
膨大な数の活字と人員、印刷設備がなくても、日本語を個人で入力でき、画面で編集・保存ができ、印刷までできるという機械は画期的なものでした。手書きの文字は、個人の癖がどうしても出てしまい読みにくくなることもありますが、規格化された文字は、情報の効率化という点では飛躍的に優れたものでした。

2000年には、新機種が作られなくなるものの……

さて、日本語ワープロはコンピュータとは独立した日本語入力機械として独自の進化を遂げ、普及し始めることになります。代表的な初期のワープロの価格を一部列記すると、

●1979年 書院WD-3000(シャープ)……295万円
●1980年 キャノワード55(キャノン)……260万円
●1981年 オアシス100J(富士通) 159万円
文作くん(JDL)……138万円
●1982年 マイオアシス(富士通)……75万円
●1985年 オアシス100G(富士通) 16万4000円

上記のようにどんどん価格が下がって、企業だけではなく個人もワープロを使い始めました。20万円前後でワープロを購入した覚えがある方も多いことでしょう。その後、技術革新が進につれて小型化され、住所録を管理して年賀状を印刷できる機種やモデムにつないでパソコン通信ができる機種も現れました。

2000年以来、新機種がなくなったワープロ専用機

しかし、1990年代後半になるとパソコンのスペックは飛躍的に上がり、日本語入力はパソコンのワープロソフトを使って入力するといいう方法が主流となっていき、ワープロ専用機は2000年を最後に新機種は発売されなくなりました。ただし、専用機を愛用するユーザもまだ多く存在し、メンテナンスなど行う業者もまだまだあるようです。

パソコン文書作成ソフトの多くが、もともと欧文仕様を日本人向けに改良していることもあって、縦書きの文書を作成する際、いまだに不便もあるようです。そのためか、ワープロソフトには原稿用紙そのものの仕様で文字を入力できるものがあり、年配の文筆家や作家の多くが、まだそちらを重宝しているようですね。

そうはいっても、現在ではスマホやパソコンが主流になった日本語入力。
現在ではプリンターと合わせても、数万円で日本語出力の環境が整うでしょう。以前は思った通りに漢字に変換できず、イライラした経験がありましたが、今では難しい漢字が出力できないなどの不具合もほとんどなくなりました。
今後、日本語の入力はどのような進化を続けるのでしょうか。そして、そのお値段はどうなるでしょうか?

≪記事作成ライター:帰路游可比古[きろ・ゆかひこ]≫
福岡県生まれ。フリーランス編集者・ライター。専門は文字文化だが、現代美術や音楽にも関心が強い。30年ぶりにピアノの稽古を始めた。生きているうちにバッハの「シンフォニア」を弾けるようになりたい。


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