2016年12月6日、臨時国会・衆院本会議で“カジノ解禁法案”が自民党や日本維新の会などによる賛成多数で可決しました。正式には「統合型リゾート整備推進法案」といいます。
与党である公明党は、内部に多くの反対者を抱えており、“自主投票”で臨んだことと、民進党などが退席して投票を棄権したことが、この法案の賛否両論の激しさを表しているといえます。
賛成派は「外国人旅行客の来日を促進し、大きな経済効果が見込める」、反対派は「ギャンブル依存症が増える、治安が悪化する」といったことが主要な理由のようです。
“賭博”を解禁する大転換
では、“統合型リゾート(IR:integrated resort)”とは何でしょうか?
これは、ホテルやショッピングセンター、劇場、国際展示場、そして娯楽施設などを統合した大型の観光施設のこと。この“娯楽施設”に、カジノを含むわけです。「なんだ、カジノだけじゃないのか」と思われるかもしれませんが、無理もないですね。報道ではカジノばかりにスポットが当たっていますから。
それもそのはずです。
この法案は、従来日本では刑法第185条で禁止されていた「賭博」を解禁するという大きな転換を実現させるものだからです。解禁、といっても、同法案では「別に法律で定めるところにより第七のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る」とされていますから、パチンコ店のようにそこら中にできるというわけではありませんが。
「第七のカジノ管理委員会」とは、「内閣府に外局として置かれるものとし、カジノ施設の設置及び運営に関する秩序の維持及び安全の確保を図るため、カジノ施設関係者に対する規制を行うものとする」規制当局を設置する案のようです。
生産誘発額5兆6300億円、消費需要増加は年間9160億円
さて、賛成派が主張している“経済効果”ですが、実際はどれくらいが見込まれているのでしょうか?
これについては、シンクタンク大手の大和総研が、2014年10月に「統合型リゾート(IR)開設の経済波及効果」というレポートを発表しています。
IRの有力候補地と目されている横浜、大阪、沖縄の3カ所に、シンガポール並みのIRが設置されたら、という仮説で試算されました。なお、シンガポールには「マリーナベイ・サンズ」と「リゾート・ワールド・セントーサ」という2つのIRがあります。
前者は、3棟の建物の上を渡すように舟形の屋上提案が乗ったユニークなデザインでおなじみの建物。ホテルやショッピングセンター、劇場、ミュージアム、そしてカジノが併設されています。後者は、セントーサ島というちょっと離れた小島に、ホテルやショッピングモール、水族館、テーマパークなどとともにカジノも併設したアジア最大級の複合リゾート。いいモデルになるようですね。
で、試算結果は、生産誘発額、つまりIRを建設するにあたって必要となる直接、間接の資材や建設、商業などの金額が5兆6300億円。消費需要増加は、年間9160億円です。
これを大きいと見るか、「これだけ?」と見るかは人によって様々でしょう。経済効果はあっても、ギャンブル依存症の人が増えれば打ち消すどころかマイナス、と考える人もいるでしょう。
── 観光立国を目指す国は、2020年に4000万人、2030年には6000万人の外国人観光客の訪日を目標に掲げています。
大きな目玉となる施設が必要という流れで推進されていく気運にあります。本当にそれでいいのかどうか、国民一人ひとり考えてみる意味はありそうですね。
≪記事作成ライター:髙橋光二≫ フリーライター・エディター。1958年、東京都生まれ。1981年、多摩美術大学デザイン科卒業後、㈱日本リクルートセンター(現・㈱リクルートキャリア)入社。2000年、独立して現職。主に経営者インタビュー、コンテンツマーケティング、キャリアデザインなどの分野で編集・執筆。
Follow Us