今年の日本と欧州の政治経済を振り返る


今年も後、数日となりました。そして年越し、新年を迎えます。
今回は、前回の米国に続き、日本と欧州について見ていきたいと思います。

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日本:今年第3四半期GDP(国内総生産)0.6%前期比、2.5%前期比年率と、今年も順調に経済成長を続けた年と言えます。
しかし、インフレ率については直近11月消費者物価指数0.6%前年比と、日本銀行インフレ目標2%からは、かなりかい離しています。経済成長は続いており、リーマンショックの後遺症からも完全に回復しているが、一向に上を向きません。
それは米国同様に、「謎」が続いています。謎が解明されず、日銀としても国債購入、株価を支えていると言われているETF買いを続けるなど、量的緩和の姿勢を続けています。このために、株価が上昇しており、日経平均は22,000円台にあり、バブル崩壊以来の最高値水準にあるようです。金利調整をする段階にはないと黒田日銀総裁は判断されているようで、政策金利についてはゼロ金利政策を続けています。
そして、10年国債の利回り水準をゼロ金利水準に調整するイールドカーブ・コントロールを続けています。
そして年間、概ね80兆円の長期国債買入れ方針を続けています。企業業績は概好調を維持し、企業の内部留保額は最高水準にあると言われています。

政治的にも安倍自民党政権が、10月の総選挙で信任され、ほとんどの閣僚がそのまま留任と安定感が増しているように感じます。アベノミクスの継承、そしてこれから到来する日本の根本的不安要因に取り組むことになります。
それは、少子高齢化社会にどのような対策を講じていくのかというようなことです。少子高齢化は深々と忍び寄ってきていて、生産人口が少なくなり、高齢化社会は増え続けています。
11月に茂木経済再生大臣の講演に参加した際、この問題について、危機的な状況が差し迫っており、その対策を講ずると聞きました。
更に、これからの世代を担う若者層の教育改革、中高年層に対する再教育を進める方針も示されました。これらは、良い経済状況の下、教育方針を実践していくことができるのではないのかと思い、筆者としても大賛成です。

為替に関しては、ドル円が110円台を維持し、日本の基幹産業である輸出企業の業績を押し上げました。
しかし、大企業の不祥事(神戸製鋼、日産自動車、JR等)は、これまで培ってきた日本の物づくり産業の伝統を覆しかねない問題が噴出してきています。このような伝統産業が崩れてしまうと、新興の中国、韓国などにその技術力・伝統が奪われかねないと思います。少子高齢化社会、伝統産業の弱体化は今後の日本経済のアキレス腱として今後も意識されることとなります。

欧州:政治的には、一昨年の英国のEU離脱、即ちBrexit決定から、自国中心の政治勢力ポピュリズム政党が躍進するのではないかと思われましたが、一定の歯止めがかかった年となったのではないかと思います。その意味では経済に大きな混乱をもたらすことなく、良い年となったのだと思います。マクロン・フランス大統領の選出は新鮮であり、ルペン候補が敗北となりました。おそらく若くて良識ある中道主義政治家を、大統領にフランスは選んだのでしょう。
そしてドイツは、メルケル首相率いるキリスト教民主連盟(CDU/CSU同盟)が第一党を確保するものの、野党第一党の社会民主同盟(SPD)を取り込み、連立政権を維持すると思われます。独・仏が安定政権をすることでユーロ圏経済は安定します。
筆者が関心のあるスペイン情勢については、カタルーニャ問題が注目されました。スペイン中央政府はカタルーニャの自治権をはく奪し、今月カタルーニャ自治州議会選挙を実施しましたが、独立派勢力が過半数を確保し、この問題は来年に持ち越しとなりました。来年はイタリアの総選挙が予定されており、ポピュリズム勢力は依然として各国に蔓延しているようです。

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ECB(欧州中央銀行)は、量的緩和から抜け出す出口戦略(テーパリング)を模索する動きになりました。量的緩和の中心的金融政策である国債等資産購入に関しては、9月の理事会で、資産購入額について月額300億ユーロをこれまでと比べ半額とし、来年9月末まで継続する方針を発表しました。これは、ユーロ圏の南北経済格差がある中での方針です。
ですが、ドイツやオランダなど良い経済国はこれ以上資産購入して、市場に資金供給する必要はないと主張しています。両者の量的緩和政策の主張は大きく異なっており、これも持ち越しとなりました。
但し、イタリア国債10年1.9%、ギリシャ国債10年4.1%、ポルトガル国債10年1.85%と、財政政策で大ナタを振っているのか、最近投資家が格付けの低い南欧諸国を購入する傾向が明確に見られており、財政状況が着実に改善しているのではないかと思わせます。ユーロ圏GDPも第3四半期0.6%前期比、2.5%前年比と、日本のGDPと同じであり、良好な印象の残る年となりました。来年はECBの量的緩和が打ち切りになるか、金利調整はどのような方針が打ち出されるか、といったところに注目が集まると言われています。

Brexitを決定してしまった英国については、2019年3月29日の正式EU離脱に向けて交渉が進んでいます。何とか良いとこ取りをしたいというメイ英国首相の思惑は、EU首脳には足元を見られている様子もあり、遅々として進まないように見えます。欧州で確固とした位置を確保しているロンドン金融市場が今後脆弱化していくか、といったところに注目が集まると思います。個人的にはその位置を確保してもらいたいと思いますが、古参の金融関係者の本音でもあると思います。ロスチャールド、ロイターが築き上げた脈々とした伝統が途切れてしまうのは、とてももったいないと思います。

BOE(イングランド銀行)は、今年利上げを実施しました。政策金利は現在0.50%としています。ECBの政策金利水準(現在0.0%)との金利差を意識した動きも見え隠れしています。
これはBrexit決定で、英国から資金流失を防ぎたい思惑も働いているのかもしれません。量的緩和のテーパリングについては、4,350億ポンド規模と今年は若干縮小する方向であったようです。経済の好転はあるものの、Brexitは2019年が本番となり、その影響が危惧されることから大胆にはテーパリングとは行けない事情もあるようです。

総じて、日本と欧州は良好な経済状態を継続しています。
そして前回レポートでは米国も良好な経済成長を続けていると報告しました。まずは、めでたしの金融地図となったのではないのかと思います。
来年もしっかりと経済地図と睨めっこの筆者の姿勢です。

皆さま良いお年をお迎えください。

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«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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