こうしてパソコンでインターネットを駆使している方なら、ほとんどだれもが知っていて、また、使ったことがある巨大通販事業を手がけるAmazon。
その勢いはすさまじい。
Amazonが手がける新規事業は私たちの常識を打ち破る斬新なものばかりで、その成長ぶりはまさに「右肩上がり」の形容がふさわしい。そうしたAmazonの躍進と、新たな事業について今回は取り上げるが、その一方で危機感を募らせているのが国内の大手流通業者だ。しかし、彼らも手をこまねいて見ているだけではなく、「打倒Amazon」を掲げた攻勢にうって出ている。
そこで今回は、巨人Amazonが手がける新たな事業領域をご紹介したうえで、Amazonへの反撃体制に入った日本企業の実態を、2回に分けて報告しよう。
ページ内目次
世界で20兆円、日本で1兆1300億円を売り上げるガリバー企業
少し前に2017年12月期のAmazonの業績が発表になった。全世界での売り上げは、日本円にして約19兆3873億円で、前期比30.7%増。純利益は、27.9%増の約3305億円で、増収増益ということになる。そのうち日本での売り上げは1兆3335億円で、前期比14.4%増となっている。
この業績の中で、世界的に顕著な伸び率を記録しているのは、
■ 家電製品(85億ドル以上)
■ ホーム&キッチン用品(55億ドル以上)
■ 書籍や電子書籍(50億ドル以上)
■ スポーツ&アウトドア用品(40億ドル以上)……などとなる。
一方、売り上げではおよばないものの、急激に業績を伸ばしているジャンルは、
■ 高級化粧品(前期比47%増で4億ドル)
■ 日用品(前期比38%増で5億ドル)
■ 食料品(33%増で15億ドル)
■ 家具(前期比33%増で15億ドル)……などとなる。
逆に、かつて売り上げの中心を占めていた本や雑誌の関連商品の伸びは鈍化しており、むしろ幅広い日常製品の需要はシフトしていることがわかる。
日本での売上高推移は、グラフ(Amazonジャパンの年度ごとの売り上げ推移)のとおり。一見してわかるように業績は堅調に推移し、2010年当時に437億円だった売り上げが、2017年には1兆3335億円に伸び、この7年で約300%の成長を記録している。これぞまさに「右肩上がり」だ。中小企業ならいざ知らず、これほどの規模の企業でこのような成長はなかなかあるものではない。
「顧客は常に正しい」。ジェフ・ベゾスの理念
インターネットを通じて、小規模の書籍通販を立ち上げたAmazonが、今日の巨大企業に成長したのは、創業者ジェフ・ベゾスの優れた商才と知性に拠るところが大きいといわれている。
彼は、Amazonの企業コンセプトとして「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を掲げ、また自らの理念として、「顧客は常に正しい」といつも周囲に語っていたという。
Amazonが最初に商材として手がけた書籍は、他の商品とはやや異質。書籍は新しい商品だけに最大の価値があるわけではない。むしろ町の書店ではなかなか手に入りにくい古い商品に価値があったりする。それは例えば、30年前に刊行された女優の写真集がほしいというケースだ。書籍にはこうしたニッチな商品を求めるユーザーもいまだたくさんいる。
こうしたニーズにこたえるため、店舗をもたずにコストを落としながら努力を重ねる……。
これがAmazon流の商売であり、一流に育った最大の理由だろう。この書籍事業での成功をきっかけに周辺商品のCDやDVDのネット販売……はもちろん、やがては生活雑貨、食料品、スポーツ用など、あらゆる日常生活用品の通販領域の裾野を広げていった。このようにAmazonは一つのジャンルに成功すると、そのエリア周辺へアメーバのようにじわじわと手を広げていく。しかしながら、決して無鉄砲に新ジャンルに挑戦していっているわけではない。そこには絶えず周到な計算が働いている。
レジなし、従業員なし、行列なしのコンビニ「Amazon go」
昨今のAmazonのチャレンジは、ネット通販に限ったことではない。
最近では、米国の高級スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ(Whole Foods Market, Inc.)」を買収し、リアル(実店鋪)なスーパーマーケットの展開をめざしている。しかし、Amazonが参入するのだから、ただのスーパーマーケット開業では消費者としてはもの足りないことも確かだ。
そこで、最近メディア等で大きな話題になったのが、2018年1月に米国シアトルで一般向け営業を開始したコンビニ「Amazon go」だ。第一号店の広さは1800平方フィート(約50坪)で牛乳やパン、チーズ、菓子類などの食料品を中心に販売。これだけ聞けば、どこにでもあるコンビニと相違ないが、このコンビニのユニークさは、よく見ると従業員の姿は見当たらず、肝心なレジすらない点だとわかる。
では、だれもいない店でどうやって商品を購入するのか。その方法はシンプルだ。
●利用客は、手持ちのスマホであらかじめ「Amazon go」のアプリを入手
●店内での買い物時、欲しい商品のバーコードにアプリ画面をかざす
●その場で購入が成立し、自動精算される
●口座などから引き落とされる
これを一つ一つの商品ごとに行っていけばレジは不要となり、レジを待つために並ぶ必要もないうえ、そのまま商品を携えて店を出ることができる。もちろん、万引き防止センサーも出入り口に完備されていて、セキュリティも万全だ。
新しいテクノロジーや発想によって客の消費動向を転換させ、コンビニの概念を覆すことになった「Amazon go」。いまのところシアトルの第一号店に続き、カリフォルニア州ロサンゼルスで開店する可能性があるという情報もあるが、正式には発表されていないようだ。今後、Amazonがどのように実店舗を展開していくのか。その動向は気になるところだ。
「金融」事業で、中小企業を下支えするAmazon
もうひとつ、最近のAmazonの事業活動で注目を集めているのが、金融だ。
Amazonは自社に商品を納入している業者に絞って、返済期間最大12か月の短期融資事業を米国、英国、日本で開始している。融資金額は1000ドルから75万ドルで設定。金利は公開されていないが、およそ6~14%と見られており、クレジットカードローンと比べれば割安だ。
Amazonにとって商品を納入する中小企業は、消費者と同様に必要不可欠な大切な存在。「中小企業が成長の機会を逃さないように、在庫を増やしたり、事業を拡大するための資金を提供している」と説明していて、融資を通じて中小企業との関係を深めたい意向を示している。
中小の事業者がAmazonのサイトを通じて販売を伸ばせば、Amazonに入る手数料も増える。また、中小企業の出店が増えれば、サイトの品ぞろえの充実につながり、消費者にとってのサイトの価値も高まる。これは単にwin-winではなく、「Amazon」「出店企業」「消費者」三方のwin-win-winの関係性といえるだろう。
── アメーバのように着実に事業を拡大し、世界を席巻する巨人Amazon。彼らが見定めるマーケットとしては日本も例外ではない。しかし、このまま米国企業に押しつぶされるわけにはいかないと、日本の流通業者も立ち上がり始めている。次回は「打倒Amazon」を掲げる、国内企業の“いま”をご紹介しよう。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、昨春退職。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。
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