日米金融当局の思惑


日米金融当局の思惑                          11月18日

トランプ次期大統領が、インフラ投資を進めると勝利宣言声明の中で発言したことから、リスク志向の金融市場が続いています。前回レポートでは経済全般について議論しました。今回は、そこに深く関わる日米両金融当局の動きについて議論して行きましょう。

金融市場はリスク志向の相場の中で、どのように変化していったのでしょうか。ドルの長短金利を検証しましょう。米10年債利回りは2.29%と、トランプ次期大統領決定の報道時の2.07%からは0.20%程の上昇となっています。短期金利先物を見ても、来年6月限1.135%と、こちらもトランプ次期大統領決定時の1.055%からは0.10%程の上昇となっています。
米経済成長のためには、トランプ次期大統領はインフラ投資を中心に据え、財政支出が増大しそうです。米国債も上限シーリングがあるものの、発行が進みそうな流れになりそうです。市場参加者は金利上昇の、インフレが急速に進むのではと思い始めています。そのためにFRB(米連邦準備理事会)は、利上げすることで、インフレを抑え込もうと試みるのではないかと思います。FRBのインフレ目標は2.00%です。
これまでは、ゼロ金利状態が続き、インフレがなかなか上昇しない状況が続きました。それがインフラ投資と言う政策を打ち出すことで、様変わりの市場環境となりました。FRBメンバーは今度はインフレファイターの姿勢を強く打ち出すことになるのかもしれません。

市場の動きとFRBの政策を短期金利先物で照らし合わせてみましょう。下記グラフはシカゴ短期金利先物ユーロドル(3ヶ月物)6月限です。現在の価格は98.865です。(金利先物では価格下落は利回り上昇、つまり金利上昇を意味します。)
これを利回りベースに引き直すと1.135%となります。FRBの政策金利フェッド・ファンド・レート(FF rate)の誘導目標は現在0.25%~0.50%です。上限の0.50%を基準に市場は見ています。6月限とFF rate上限との金利差は0.635%となります。
これは12月14日のFOMC(米連邦準備理事会)での0.25%の利上げを織り込み、来年6月までに更に0.25%の利上げがあるのではとの観測を市場参加者に誘います。チャート上では、2本の緑のラインを注目してください。今年後半は上のライン98.93(1.07%)を下抜けしない状態が続きました。
これは主に、Brexit(英国のEU離脱)と原油価格の低迷が主な要因となり、FRBは利上げを躊躇する状態が続いたのではと推測します。それがここにきて、1.07%水準を下抜けして、インフレ懸念再燃のドル金利上昇の動きを加速しそうです。下段の緑ラインの98.50(1.50%)水準に金利上昇が、トランプ経済のインフラ投資から予想されます。1.50%の水準になると、現在のFF rateとの金利差が1.00%と、来年の複数回(0.25%毎)が観測される状態となります。
FRBメンバーのFF rateの9月21日FOMC声明文中のドット予想(各メンバーはどの程度の利上げ予想をしているかのチャート)を見ると、17名中6名が1.50%以上を予想しています。今回トランプ次期大統領を選出したことで、メンバーの多くがFF rateの予想をそれ以上の水準に設定予想することは容易に想像できます。筆者は来年2回から3回つまりFF rateで1.50%の利上げが実施される可能性があるのではと思います。
現在の米インフレ率は、直近で10月消費者物価指数1.6%前年比、コア2.1%前年比、そしてFRBが重視する9月PCEコア・デフレーター1.7%前年比となっている。この数字がどのような上昇の動きになるかに注目です。トランプ政権に移行して、輸出拡大のドル安政策をとると、輸入物価高からインフレ懸念は益々強くなります。このことも念頭に入れておきたい。
ドル高相場が、金利上昇から続いています。それが米新政権のドル安政策が明確に打ち出されると、ドル相場観は、ドル金利上昇vs.ドル安政策の構図になるのではと推測します。波乱の為替相場も今後予想されます。

それでは日本の金融当局、つまり日銀の思惑を論述しましょう。下記のグラフ(出所:ロイター)では、インフレ(青)とデフレ(赤)のサイクルを1990年代から示しています。
これを見ると、円安傾向が進んだここ2年位の間は意外とインフレ状態ではと推測されます。それがここにきて、赤のゾーンに沈み、デフレ懸念が台頭してきているのではと思います。
このため、9月の日銀金融政策決定会合では、金融政策のスタンスを、イールドカーブコントロールと、オーバーシュート型コミットメントに移すことにしました。難しい用語ですが、要は、これまでの量による金融政策から金利をコントロールする政策に変化してきたということです。
これまで年間80兆円程度の資金供給することで、デフレ脱出、インフレ目標2.00%の達成を目指してきました。それが、定点の金利つまり10年日本国債の金利をゼロ金利に上昇させることで、物価目標を達成する方針に変更したと言えます。しかし、今回の米国金融市場の動きが日本にも波及してきたのではとの兆しが見え隠れします。ドル債券・金利上昇が、先進主要国の債券・金利上昇の動きにつながってきているのではないかと思います。
日本国債利回りは、トランプ次期大統領に決定前の11月8日には-0.06%でした。しかし今週水曜日16日には+0.02%まで跳ね上がりました。
そのために昨日17日に、異例の「指し値オペ」に踏み切りました。10年債ゼロ金利目標の水準から金利上昇の動きになったために、踏み切ったようです。指し値オペとは金利上昇局面で、無制限に国債を購入する謂わば「劇薬」と捉えられている。市場ではもっと低い利回り水準で国債売買が出来たために、応札はなかったようです。これ以上金利上昇はさせないというアナウンス効果を狙った日銀と言えます。
金利上昇歓迎の日銀でも、急激な上昇は嫌ったのでしょう。10年債利回りをゼロ水準で現状固定し、足元の物価を2%に上昇させ、デフレ脱却、企業の需要の創出、そして景気回復を目論んでいる。しかし為替市場では、日本の長期金利が上昇しない、そしてさせないとの観測から、急速に円安が進みました。
米インフラ投資のドル金利高傾向、そして日銀の10年債ゼロ金利死守の動きから円金利低位安定の観測から、ドル円上昇(円安傾向)の動きが顕著となっている。

不透明な金融市場ながら、今後どの金融商品に投資するのが良いのか次第にはっきりしてきているのではないか。少なくとも金利を生まない金相場には投資が離散しそうです。
そして米国株、その波及効果が期待される日本株も良いのではと思います。また金利上昇局面では、先進国の中では高利回りが予想されるオセアニア諸国、つまり豪、ニュージーランドの債券への長期投資は有効のように思います。
そしてリスク回避局面到来の保険の意味でのミドルリスク、ミドルリターンの商品を組み込むことも考えることが必要ではと思います。

«記事作成ライター:水谷文雄»
国際金融市場に精通するInvestment Banker。
スイス銀行(現UBS銀行)にて20年余に亘り外国為替および金利・債券市場部門で活躍、
外銀を知り尽くす国際金融のプロフェショナル。新興の外国銀行(中国信託商業銀行 )の
東京支店開設準備に参画しディーリング・ルームの開設を手掛ける。
プライベートではスペインとの関わりを深く持つ文化人でもあり、
スペインと日本との文化・経済交流を夢見るロマンティスト。


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